私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

柚子とともに 2014年房総に3年過ぎて

2014年
92歳の母 回復して普通食
柚子の巻

        

「振り返る」

母と居る正月吾に娘あり 銀髪整へ美しくする

吾が想ひなにかが世とはズレがちを「おっちょこちょい」と父の呼びたる

年新た父娘(おやこ)並びて「春の海」奏せし図あり 振り袖延べて

野の花の絵のくすみたる薩摩焼 祖父の還暦祝ひの湯呑

江戸城の絵図CGに興されて栄華の極み火災無縁に ==江戸城は火災で消失したとか



「末裔」

四十二の誕生日まで母吾を遠く歩ます虚数の軸に ==1月生まれの子の年齢を数える

寒の日の時止まるほどしんと晴れ 無事なるはずの子が思はるる

護られてまた護りたし子の一生 邪魔せぬほどに託したき老い

楽しかったと思い出話 ツイッターに心わが読む次男の人生




「世の常の」

新年の六日のうちに人の世に積もるくさぐさニュースは伝ふ

可能性いくつありても出逢ひたる一瞬までを無知のままなり

けふの日をともかく生きたる証とし斜線一本暦を進む

睦月尽 少し事故って破壊せし柵はともかく気のゆるみゐき ==典型的なオートマチック事故

忘れたり計りたりしてくねくねの血圧線の記録も五冊

執着の気持ちは事実だろうけど「愛」だなんてそれはまた別




「テレビの世界に」

満月が夜警のごとく仕事終へジオラマ地球に親方が出る

モルディブの珊瑚の海に花びらの魚ら気ままに楽しげに見ゆ

インド洋に造化の妙あり 魚らの永久に遊べよ明日を知らず

断崖の無数の巣より大小の鳥急降下ししゃもの群へ

産卵せしししゃも 砂地に累々と身は食まれゐる白頭鷲




「冬を咲くもの」

ミニ薔薇の足もと飾る白すみれ 冬雨もしばし一番に咲け

ランタナのとりどりの色負けん気の香りよ黒き粒子は固し

庇からたわわに白き冬の花 枯れ葉をとりて見栄えよくする ==冬庭のおなじみ




「春に拘る」

初春と書きて 寒の入りとなるゆえ 寒中見舞ひ 雪なれば出す

春のみの国なきものか 詩を書かばプールと雪と秋麗恋はむ

人間の見果てぬ夢よ自足とふ春の便りをいつまでも待つ

今更に夢といふものあらねども何故かあくせくせずにいられず
 ==上の歌を推敲した結果




「猫の道」

猫道を行き交ふ速度かれらにも生のなかなかややこしきらし

心配は今の空腹 明日の日を思わぬところ猫ふとつぱら

明日の事思い煩ひ耐えられぬ人の不安の頭でっかち

日に数度すいとガラスをよぎるものここは猫族専用の道

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冬の実とともに 2014年立春と大雪

体も脳も衰えるものだ 老いの道
冬の実の巻
        
                

立春

春立つや寒波傾(なだ)るる西空のもやの帳(とばり)の月とふ裂き傷

隣屋に実る黄のもの 冬鳥の活計(たつき)支ふる意図かは知らず

まばらなる箏曲の会 究めたる人の爪音耳に飛びこむ

何思ふ猫族なるや一日を忙しそうに暇そうに居る




「豪雪警報」

半島を小湊線に乗りてゆく吾を吾がみる雪の空より

白に白 梅を夢見て横切れる房総半島ディーゼル一両

吹きつのる「暴雪」一路 駅ごとに雪原深し遂に停まりぬ

果敢にも房総半島突き出せるその薄さもて太平洋へと

百羽ものスズメの如きが雪の田に下りて集ふを車窓に見て過ぐ




「入院付き添い」

鶴舞にそびゆる病院 低岡(ひくおか)の稜線遠く四方(よも)囲みたり ==つるまい

鷲らしき形が渡る青き空久しく雪に覆われて居し

田の雪が氷となりて夕つ日に撫でらるるごと静けく光る

雪ほとび小湊沿線 田も畑も水と氷のあはひ鈍色(にびいろ)

竹群は斜面に群るる家止(とど)め養老川を守るがに立つ 




「平成の四半世紀」

使ひ残す父のノートの時たちて夫の闘病記録となりたり

亡き父のノートに残る空白にひ孫友理のまるまるが続く

生み捨てしやうなる別れ サボテンのごとく自然は汝れを育てし

かりそめの縁(えにし)となりぬ 遺伝子のプールに夫婦の撚り糸消ゆらん




「如月半ば」

和菓子屋に春はきたれり臘梅の香りの暖簾くぐりて入る

美しき靴のみ買ひて痛む足人魚姫たち日々に苦しむ

「おめでとう」「御馳走さま」と老夫婦久方ぶりに労り合ふらし

こたつ無き部屋にがさごそ歌や詩を綴りて 来るや来ざるや待つ春




「仕組み」

聳え立つ都庁の窓の複雑に城郭めきてガラスに対峙す ==いつまでも未完の歌です

予報士は地球を回す 都市と森 砂漠と海の静かならざるを

巡る季の花咲きかつ散る 静寂にほど遠くして一生過ぐらむ

シェールガスなど無き国に津波あり「クリーンエネルギー」の闇人知に余る




「春の手触り」

音なくて雨降りゐたり 静かにも春を見上げて庭辺の千草

春の色僅かのみ見てサボテンが無沙汰して居し母へのみやげ

酔ひたしも美酒とふものに 半月の翳りて弥生落ちゆく宵は

ヴィオロンの弓と化したる春一番 ケープルの弦(げん)奏でて過ぎぬ

ぽつぽつと新芽の赤きバラのつる「こっちへおいで」とわがまま正す




「老いにも春」

ゆるゆると背中曲がりて歩む影いくたりも見る窓辺の路地に

羽ばたきて遂に消えたる子をはじめ 母の理解を越えし息子ら

哀惜にあらぬ感動の涙なる 君の短き一生のすべて

爪のみが最後にいまだ美しとせめてエナメル光らせてみる




「動物の生き」

風にのり弧を描く影 鳶か鷲はばたきもせぬ大き眼に

ポメラニアンのひもつき散歩の影に似て茶色の猫の独立独歩

人により生まれしめはた死なしめて馬塚ありて牛は喰はれぬ

生物を噛むための歯も美のひとつ ヨン様人気のなかなかをかし

剥き出して脅すためとも笑顔とも 歯列綺羅めくアニメのヒーロー

白き歯の笑顔の魅力に抗し問ふ 剥き出せる歯のそもそもの意味




「春来る」

にぎやかに街灯満月並みて照る 春の吾が庭猫も踊らむ

春衣パンプスの音軽やかにいちやうの木下新芽を見上ぐ

やはらかき雨の夜明けて春の陽よ 畑も小鳥もそはそはとする

渋滞のバス内自力出せぬゆえひとつ息して歌帳をとりだす

桜色舞ひし歌会去年は夢 白の早咲き雨に濡れゐる ==大島桜

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侘助とともに 2014年残骸の山築き続ける

半刻の散歩、ひさしぶりの天然
侘助の巻

            

「春への愁い ーー 赤の波長」

仕方なしかく夕暮れて雪原に赤の波長を受けて立つ

春雨の庭の千草をあすは摘むセシウム少々含まむとても

入選の歌を読み終ふきざはしを鬱二日分転がり落ち来

共感とふ思考のパターンのレール上の小石のごとくはじかるる歌

五割がた成し遂げたることある吾と思ひ返して養命酒飲む

孤独死の義母のセーター吾の着て諍ひとほく温しと思ふ

世の常の心配しても祈りても確かなること神の沈黙

「愉しまむ歳を忘れてこの春を」たれの言葉か頭に光る

水仙辛夷に白き光満ついくつにならば飽きるやあらむ

けふの日をともかく生きたる証しとし斜線一本暦を進む




(真実を未来に恃む)

天才らの脳とビッグバン明かす日に間に合はざりて死ぬに死ねざる

大気層をまとひ疾走する地球 ダークマターと重力の加護

存在の真実探る吾が視界 おぼろにぞ見ゆ社会も情も

囀りの外の面に満つる朝風呂の吾がほどけゐる鳥かごの中

累々と鍋にじゃがいも死体めくベジタリアンなら霞喰ふべし

死に方が気になる古希が目の前に「やっと死ねる」と待つ境地待つ

軽薄に過ごしし女真実を追ふ者となる子の去りてより




(命断たれて)

青年の逝けば涙の苦さより歌の雫とこぼれしそもそも 

自がみちを子の往く知らず「太極拳いつか見てね」とわが始めたる

頑張ると思ふにあらず約束の二筋の道おのづと辿る

エストロゲン減りて惹かるる太極拳たゆとふ武術動く禅なり

止めどなき老いの変容呆れつつ抱く心の核十余年

生存せる子が発信する「さあ寝よ」と時刻同じに日本にい寝て

幾夜さか悪夢あまたを見たること夜具ひきかぶる間際なだれ来




(恋路)

灰色のいや増す空の下なれや恋は煌めく最強の武器

ため息とハートの瞳 もし歌も溢れ来るなら恋とふ病

哀れなるほど限りなく人恋ひの詩の生まるるよ生命の根より

幸せを信じゐたるらむ若き日の夫の呉れたるシネラリア青

恋ふること本性ならめ さはあれど恋の文化に愛とふ偽り

直情に自他を巻き込む性愛の愛にあらねば結べぬ絆

似て非なる恋と愛にも幾ばくの重なり合へる恩寵ありしや

諦めし片恋ひの数 散じたる夢 多けれど惜しまぬ記憶




(早春へ)

地を嚼んでゐる昼顔の長き蔓 引き剥がしては太く束ぬる

きうり草群れ咲く見れば早春のほんに小さき白き花なり

お馴染みの庭のものたち顔出すも後生の花の玉芽見えざる ==ハイビスカス

鳥たちの歌ひつ千切りつ まつはれる大島桜 地にも散り咲く 

儚しと思へど五弁の白き花拾ひて集む その柄に紅あり

風ありて揃ひてしなふ浅緑 川端柳しばし右向き

河口へと流るる花びら 一刻ののちまた汐に押し戻さるる

するかせぬ春雨の音窓辺なる薔薇若芽より雫落ちんとす

東京の土地に棲み分く人と樹々 自然係の給金如何に




(逡巡)

歌会に半日座せば駅よりは徒歩二千歩に夕闇帰る

切り岸に追ひつめられし刻を耐えへらへら生くるこれは剛さか

群青の春夜の月に見られゐる熟年夫婦互ひにうんざり

もし吾の勝ち残る日は吠ゆるべし孤独と自由なにより自由

もし自由得たるに八十路過ぎならば秋風にただ浚(さら)はれてゆく

もし今し自由なるとせよ 沈思せばわが無意味さに溺れ死ぬらむ

「ただ今の寸暇を磨くべし」などと御託無用の自由を怖る

今のみの時の砂なり こぼれゆく指の随(まにま)になづき倦むまで

虚ろなるどこも痛まぬ五感もてぐいと出でゆく春日の中へ





「春に浮かれて」

うんうんと地よりわきたつ緑児を雨とお日さま交互にあやす

やはらかき雨の夜明けて春の陽よ畠も鳥もそはそはとせり

九分咲きの桜トンネルたださくら歌なせぬ身の木瓜を盗みぬ ==花泥棒

七階ゆ桜や緑みはるかす 靄ひてつづく丘陵までを

青空に花珠(はなだま)延べてゐし桜 けふ楼閣ゆ探す雨中

ヒヨ一羽気弱そうなる眼の動き八つ手の小さき実がランチなり

更衣の季 出し抜かれては藤色や若緑なるうすもの買はず

皐月へと向かふ陽のもとどう見てもTokyoのビル色褪せてゐる

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菜の花とともに 2014年 チャレンジばかりはする

春の野の花を摘む、すぐにしおれる
菜の花の巻

           

「文句の多し」

この不快胃酸逆流ならむとて半身起こしてい寝ればどつぼ

斜めより世を眺めては歌でなしと失笑さるる変人にてそろ

すり減りし三年来のスニーカーまだ履けるかもと思ひてみつき

祖母譲り外反母趾の遺伝子が変形させたるわが赤き靴

不満顔の母を説得買はせたる安物家電わが長く使ふ ==母は施設に

店先に「勉強して」と値切りゐし母なりレジも消費税もなく

葛西辺り不在の人に胸元を強く圧さるる消えるといふ事 ==弟との死別

後の世に平和あれども美醜あり君関わらぬことばかりなり ==子との死別




「かみさまに見捨てられて」
苧環の虫のふんほどの種送る 再婚したる友の身の上

かはいさうでたまらぬ胸に「ノオ」とのみ あのこあんまり自立しすぎて

果敢なしや子供なりし時過ぎ行きて天眼鏡で見る子の写真

取り返しつかぬことのみ 緑 赤 橙色も点灯する部屋

いつか来る雨だれこだれ 柿の木を柿薮にする方法知りぬ

きりくりと乾ける音に蠢きて働き通し外付けHD

オルゴール思はす「ピン」を聞くけふも 安心元気アップル老女 ==愛機?はマッキントッシュ

タイムマシン過去の書き換え可能とす 再度の労苦の当ては無けれど ==マックの機能の一つ
                     
ドラキュラに血を抜かれつつけふも吾コンビニの客それだけの者

若き日のあまりの遠さ あちこちに小さき梗塞脳に起こしき

三番目下から二番目どちらなる違反作業の左脳に疲労

一度しか使はぬ回路すぐへたる名無し草など神にはあらね

夜一時睡魔を待ちてやれやれと夢も見ぬらし海馬の混乱

必須なる老眼鏡の輪郭の中に暮らして躓く外界

後朝の猫の恋路の邪魔をしてドンタク無心無欲を欲す

トランポリン飛んでも撥ねても逆縁を家事の流れをシミュレーション

「何処にて踏み外したる」大失態「気落とす勿れ敵失もある」

みな好きと思ふこの世の閉塞の中間隙に白き自由も

泡宇宙千変万化にクロアチアをかしや粘菌阿弥陀籤など

憎むもの富の取り合ひ 無為でゐるしかなき吾の脳をあはれむ

けふ吾の言葉の泉涸れはてて南東よりの風湿り初む

経験則男を死なす女吾 雨くる前に枯れ葉を袋に

「あたしはね男をだめにするらしい」赤実と白き花もつ十両

悲しがる理由も忘れセレナーデひとふし聞きてリンパ正さる

柿若葉を切るとふ無惨十年の修練何も産まぬも無念

今回もわざわざどうもと断られ素人作品あまた仕舞へる

人気無く遂にここまできたからは汚き手もても販路獲得

そのあげく踏み入らんとするけもの道「おう」と応へて手探りの闇

星印自ら付けしを貧粗なる歌と嘲はれ笑ひて帰る

定型は残すとしても急流のごろごろ石を転がし泳ぐ

薬害か日々増す眠気 このままに死の世界まで崩れゆくかに

何かしらがつんと頭に当たりたる 尖るな吾よ鋭くなくてよし

まあいいか眠たい寝たい足だるい体が重い頭ぼんやり

足元に小花群れいゐて空元気 さんざ笑ひてふと寂しけり

あつさりと諦めはせじ 吸う息を前頭葉に流せば涼し

パソコンの能力過信 無害にて小さく清らに人形でも欲し

一生の最初で最後 願はくばかつとなりても静まり諦む

コスモスよ君はどうする 老い以外苦になるもなく過ぎ去る五月

夜を込めて海鳴りの音 体内へ耳傾けて蝸牛も巻貝

戸外より不可解の音 出産後女の脳は母に変わるよ

心配を押し退けむとて念じゐる 空木卯の花豆腐におから

果物を満たせる夏日冷蔵庫 消化と居眠り同時に起こる

冷や冷やとせる心もて 柿若葉薔薇の青葉の隠れ家にゐる

いつもならあり得ぬことを諾ひて瞬時驚くしかし忘るる

二日間失意に慣れて 鬱の胸ぬくもりきたりつまんないことさ

人はみな壊れてしまうかみさまに見捨てられたる不完全物

死ぬまでを生きねばならぬ 赤き実となる片隅の小花にもなれず

長詩でも物したる気に おのれへの好奇心なりかぶきものめく

挽歌より始めたる歌かくなりて仕方なしともあな面白し

改行と同時に無より現るる数字が吾のおゐどを叩く ==番号付き機能を用いたら

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桜とともに 2014年終活が心を占める

運の良い母だと思ったり可哀想だったり
桜の巻

              

「依然として破れ鍋に綴じ蓋」

朝夕の不満だらけが不満にて自省すれどもぬるりとどぜう

かく妻に疎まるるわけ何故作る吾を頼る夫天涯孤独なり

吾が不満と隷属のわけ分析す地霊のごときマグマ危ふし

夫の弱みついに握りて牛耳ればどつちもどつち的夫婦なり

本心を言へと言はれてパニックに斜め左に視線さまよふ ==嘘をつく時左を見るとか
         
よくもまあ肌に若さの欠片なく夜明けひとつに皺深くなる

見慣れたる吾が顔に似て見知らねどトゥルーミラーに秘密のお喋り
 ==スマホのアプリ:非鏡像を見せてくれる
          
肌と肉のすべてにありし性感帯還暦辺りの脳サボタージュ





「たおやめぶり」

涼やかに立夏となりて莢豌豆花びら白きを付けて茹でたり

柿若葉の向かうを行き来せる猫の一心不乱わが無聊にて

奈良あたりひとり旅せば歌に溺れ言葉となみだ胸を割くらむ

たれの絵の手弱女に似む 白薔薇を五月雨に吾が清けく切りぬ ==夢二など

楚々などと言はぬつもりに苧環のうつむく色を四角に保存

サクと切る紫紺の茄子の肌の色 緑がかれる白さと思ふ

我が煮炊きおざなりなれど愛づるもの地より生れたるなべての緑




「嬉し哀し」

わがうからみな肌白く丈高し形質ともに凌がれ嬉しむ

四歳となれる孫よりそそがるる愛の心の大なり純なり

愛すれば純真なる愛返しくるる幼も犬も哀し痛まし

四十年代に未来学あり現実となりし西紀の未来にロボット

若人に無沙汰を詫びていまさらに悔いと面影この八の日に

汝れ消えて命の限り泣き喚く声の限りに共に叫ばむ

君にとり誰に相談したとてもどん詰まりなるそれが変はらぬ

君とてもできる限りはいそしめどそもこの道がT字路とはね

T字路を左折か右折あへてせず己が路より美しきはなし




「ただに光陰」

肌の色の黒から白へ変はるなど意外に速し三世代もせば

壮年でおさらばも良き老残の階段の前男盛りに

柿若葉の光るを喰ふ虫をらぬらし薔薇の新芽に黒点動く

季のものの描かれ美(は)しきカレンダー月々めくりポカンと終り

今生の別れなるかと去り難し半世紀ぶり友と出逢ひて ==たとえば同窓会で

夢になほ吾が求めゐる家なにぞ 仮の宿りをまた後にして

久しぶりの夢にてもなほ探しゐるその家を吾が知らぬかも知れず




「自然は歓びを」

パソコンを開きて度に息をのむ手塩にかけし木香薔薇 白

遮音壁に房短くてたたわなる山藤を見き ひと日を夢む

更衣の季また出し抜かれ藤色や若緑なる薄もの買はず

どつと咲き花弁どうと散り零し今はお澄まし桜の若葉

雷ありて五月の蒼を薄墨の美しき濃淡たちまち覆う

列島を覆ふ緑は十八歳さかりの色に吾が多幸感

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鈴蘭とともに 2014年 たくさん詠った、のは確か

習字や絵をかきたいのに出来ないと母は嘆く
鈴蘭の巻

                   

「都会から鄙への帰路 ーー 首都高い往く」

東京の地下の深きにインフラの秘密の迷路作られてをり

ガックリと長い黒髪垂らしたる顔なきものの座しゐる車内

都へと集まる栄華 揺れながら名も無きものら希望にすがる

アイフォンとベンツの看板 レース編みのビルさへありて大樹をみおろす

コンクリに落暉眩しきレインボーブリッジいつか地下へといざなふ

歌会の帰路の次元は観覧車乗るか見るのか老いの好奇か

海底にトンネル掘るとふ力技たれかのサウンド享受して座す

旗雲が風速七メートルになびく空ゆうべ騒立つ灰青の海

木更津に入るや緩む美意識の家居低くて青田の中に

都にはあらぬ緑の集合体 天地の生気 形を得たり

髪にひげ 坊主頭も柔らかに愛でゐる緑野 たなごころにて

無事に二人産まれて後に五たりの水子の弟妹白紙のごとく

ひたすらにわが焦れゆく森の樹の香ぞ著るからむ伊勢のあたりは

その赤き十七夜月おさらばの挨拶のごと地球を見下ろす

コンビニのおのれ励ますかに高き声受け吾のくぐもれるかな




「六月の花」

雨粒を並べし茎の延びる先 ジャスミン咲けり白嬉しげに

梅雨のころ赤きつぼみのジャスミンの命の咲けばはかなく白し

紫のコスモスならずニゲラなり実から種生るさまゐとも変 ==クロタネソウ

馴染みなる野草出で来ずコスモスに葉の似たる花 今夏の客人

苧環のはりがねの茎ビンと揺れ花殻さはに種撥ね飛ばす

雨となる今宵を待ちて向日葵のたね深く植ゆたつぷり降れよ




「六月の顔」

わが顔のゲジゲジ眉を阿修羅像お持ちのやうに見奉るも

「イケてる」のつもりでゐたる吾の聞く悪しき母とぞ子の記憶には

侮れぬ激辛ラーメン 救はれし鬱に味覚を失へる寡婦

宿世より因縁あるかにこの下司を護りたるつけ地獄にて払ふ

八の字に眉を集むる夫の癖「普通の顔で!」と敵取るなり




「記憶の街々」

笛吹市の古き民宿夢のごと 湯よりもどれば葡萄冷え居き

広大なる市原市にもピンポンと鳴りて全域スモッグ警報

薩摩にも祇園祭のコンチキチ口開けて見き戦後の子らの

みちのくへ独り旅せばむね割かれ溺るるごとく歌とならまし

三角地に可愛く畝の立ててあり葱の出づるやひとり居なるや




「月を思う」

五月尽 西空低く眉月のつの字に傾ぐ「あらば明日まで」

宵ごとに三日月高くなりゆきて夏至過ぎの闇徐々に深まる

夏至あとも日長の夕べいつまでも月のカケラと割れたる記憶

寝る前に立ち待ち月を見に出でつ 指を幼にぎゆつとにぎられ

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