柚子とともに 2014年房総に3年過ぎて
2014年
92歳の母 回復して普通食
柚子の巻
「振り返る」
母と居る正月吾に娘あり 銀髪整へ美しくする
吾が想ひなにかが世とはズレがちを「おっちょこちょい」と父の呼びたる
年新た父娘(おやこ)並びて「春の海」奏せし図あり 振り袖延べて
野の花の絵のくすみたる薩摩焼 祖父の還暦祝ひの湯呑
江戸城の絵図CGに興されて栄華の極み火災無縁に ==江戸城は火災で消失したとか
「末裔」
四十二の誕生日まで母吾を遠く歩ます虚数の軸に ==1月生まれの子の年齢を数える
寒の日の時止まるほどしんと晴れ 無事なるはずの子が思はるる
護られてまた護りたし子の一生 邪魔せぬほどに託したき老い
楽しかったと思い出話 ツイッターに心わが読む次男の人生
「世の常の」
新年の六日のうちに人の世に積もるくさぐさニュースは伝ふ
可能性いくつありても出逢ひたる一瞬までを無知のままなり
けふの日をともかく生きたる証とし斜線一本暦を進む
睦月尽 少し事故って破壊せし柵はともかく気のゆるみゐき ==典型的なオートマチック事故
忘れたり計りたりしてくねくねの血圧線の記録も五冊
執着の気持ちは事実だろうけど「愛」だなんてそれはまた別
「テレビの世界に」
満月が夜警のごとく仕事終へジオラマ地球に親方が出る
モルディブの珊瑚の海に花びらの魚ら気ままに楽しげに見ゆ
インド洋に造化の妙あり 魚らの永久に遊べよ明日を知らず
断崖の無数の巣より大小の鳥急降下ししゃもの群へ
産卵せしししゃも 砂地に累々と身は食まれゐる白頭鷲に
「冬を咲くもの」
ミニ薔薇の足もと飾る白すみれ 冬雨もしばし一番に咲け
ランタナのとりどりの色負けん気の香りよ黒き粒子は固し
庇からたわわに白き冬の花 枯れ葉をとりて見栄えよくする ==冬庭のおなじみ
「春に拘る」
初春と書きて 寒の入りとなるゆえ 寒中見舞ひ 雪なれば出す
春のみの国なきものか 詩を書かばプールと雪と秋麗恋はむ
人間の見果てぬ夢よ自足とふ春の便りをいつまでも待つ
今更に夢といふものあらねども何故かあくせくせずにいられず
==上の歌を推敲した結果
「猫の道」
猫道を行き交ふ速度かれらにも生のなかなかややこしきらし
心配は今の空腹 明日の日を思わぬところ猫ふとつぱら
明日の事思い煩ひ耐えられぬ人の不安の頭でっかち
日に数度すいとガラスをよぎるものここは猫族専用の道
___