私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

冬の実とともに 2014年立春と大雪

体も脳も衰えるものだ 老いの道
冬の実の巻
        
                

立春

春立つや寒波傾(なだ)るる西空のもやの帳(とばり)の月とふ裂き傷

隣屋に実る黄のもの 冬鳥の活計(たつき)支ふる意図かは知らず

まばらなる箏曲の会 究めたる人の爪音耳に飛びこむ

何思ふ猫族なるや一日を忙しそうに暇そうに居る




「豪雪警報」

半島を小湊線に乗りてゆく吾を吾がみる雪の空より

白に白 梅を夢見て横切れる房総半島ディーゼル一両

吹きつのる「暴雪」一路 駅ごとに雪原深し遂に停まりぬ

果敢にも房総半島突き出せるその薄さもて太平洋へと

百羽ものスズメの如きが雪の田に下りて集ふを車窓に見て過ぐ




「入院付き添い」

鶴舞にそびゆる病院 低岡(ひくおか)の稜線遠く四方(よも)囲みたり ==つるまい

鷲らしき形が渡る青き空久しく雪に覆われて居し

田の雪が氷となりて夕つ日に撫でらるるごと静けく光る

雪ほとび小湊沿線 田も畑も水と氷のあはひ鈍色(にびいろ)

竹群は斜面に群るる家止(とど)め養老川を守るがに立つ 




「平成の四半世紀」

使ひ残す父のノートの時たちて夫の闘病記録となりたり

亡き父のノートに残る空白にひ孫友理のまるまるが続く

生み捨てしやうなる別れ サボテンのごとく自然は汝れを育てし

かりそめの縁(えにし)となりぬ 遺伝子のプールに夫婦の撚り糸消ゆらん




「如月半ば」

和菓子屋に春はきたれり臘梅の香りの暖簾くぐりて入る

美しき靴のみ買ひて痛む足人魚姫たち日々に苦しむ

「おめでとう」「御馳走さま」と老夫婦久方ぶりに労り合ふらし

こたつ無き部屋にがさごそ歌や詩を綴りて 来るや来ざるや待つ春




「仕組み」

聳え立つ都庁の窓の複雑に城郭めきてガラスに対峙す ==いつまでも未完の歌です

予報士は地球を回す 都市と森 砂漠と海の静かならざるを

巡る季の花咲きかつ散る 静寂にほど遠くして一生過ぐらむ

シェールガスなど無き国に津波あり「クリーンエネルギー」の闇人知に余る




「春の手触り」

音なくて雨降りゐたり 静かにも春を見上げて庭辺の千草

春の色僅かのみ見てサボテンが無沙汰して居し母へのみやげ

酔ひたしも美酒とふものに 半月の翳りて弥生落ちゆく宵は

ヴィオロンの弓と化したる春一番 ケープルの弦(げん)奏でて過ぎぬ

ぽつぽつと新芽の赤きバラのつる「こっちへおいで」とわがまま正す




「老いにも春」

ゆるゆると背中曲がりて歩む影いくたりも見る窓辺の路地に

羽ばたきて遂に消えたる子をはじめ 母の理解を越えし息子ら

哀惜にあらぬ感動の涙なる 君の短き一生のすべて

爪のみが最後にいまだ美しとせめてエナメル光らせてみる




「動物の生き」

風にのり弧を描く影 鳶か鷲はばたきもせぬ大き眼に

ポメラニアンのひもつき散歩の影に似て茶色の猫の独立独歩

人により生まれしめはた死なしめて馬塚ありて牛は喰はれぬ

生物を噛むための歯も美のひとつ ヨン様人気のなかなかをかし

剥き出して脅すためとも笑顔とも 歯列綺羅めくアニメのヒーロー

白き歯の笑顔の魅力に抗し問ふ 剥き出せる歯のそもそもの意味




「春来る」

にぎやかに街灯満月並みて照る 春の吾が庭猫も踊らむ

春衣パンプスの音軽やかにいちやうの木下新芽を見上ぐ

やはらかき雨の夜明けて春の陽よ 畑も小鳥もそはそはとする

渋滞のバス内自力出せぬゆえひとつ息して歌帳をとりだす

桜色舞ひし歌会去年は夢 白の早咲き雨に濡れゐる ==大島桜

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