私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

侘助とともに 2014年残骸の山築き続ける

半刻の散歩、ひさしぶりの天然
侘助の巻

            

「春への愁い ーー 赤の波長」

仕方なしかく夕暮れて雪原に赤の波長を受けて立つ

春雨の庭の千草をあすは摘むセシウム少々含まむとても

入選の歌を読み終ふきざはしを鬱二日分転がり落ち来

共感とふ思考のパターンのレール上の小石のごとくはじかるる歌

五割がた成し遂げたることある吾と思ひ返して養命酒飲む

孤独死の義母のセーター吾の着て諍ひとほく温しと思ふ

世の常の心配しても祈りても確かなること神の沈黙

「愉しまむ歳を忘れてこの春を」たれの言葉か頭に光る

水仙辛夷に白き光満ついくつにならば飽きるやあらむ

けふの日をともかく生きたる証しとし斜線一本暦を進む




(真実を未来に恃む)

天才らの脳とビッグバン明かす日に間に合はざりて死ぬに死ねざる

大気層をまとひ疾走する地球 ダークマターと重力の加護

存在の真実探る吾が視界 おぼろにぞ見ゆ社会も情も

囀りの外の面に満つる朝風呂の吾がほどけゐる鳥かごの中

累々と鍋にじゃがいも死体めくベジタリアンなら霞喰ふべし

死に方が気になる古希が目の前に「やっと死ねる」と待つ境地待つ

軽薄に過ごしし女真実を追ふ者となる子の去りてより




(命断たれて)

青年の逝けば涙の苦さより歌の雫とこぼれしそもそも 

自がみちを子の往く知らず「太極拳いつか見てね」とわが始めたる

頑張ると思ふにあらず約束の二筋の道おのづと辿る

エストロゲン減りて惹かるる太極拳たゆとふ武術動く禅なり

止めどなき老いの変容呆れつつ抱く心の核十余年

生存せる子が発信する「さあ寝よ」と時刻同じに日本にい寝て

幾夜さか悪夢あまたを見たること夜具ひきかぶる間際なだれ来




(恋路)

灰色のいや増す空の下なれや恋は煌めく最強の武器

ため息とハートの瞳 もし歌も溢れ来るなら恋とふ病

哀れなるほど限りなく人恋ひの詩の生まるるよ生命の根より

幸せを信じゐたるらむ若き日の夫の呉れたるシネラリア青

恋ふること本性ならめ さはあれど恋の文化に愛とふ偽り

直情に自他を巻き込む性愛の愛にあらねば結べぬ絆

似て非なる恋と愛にも幾ばくの重なり合へる恩寵ありしや

諦めし片恋ひの数 散じたる夢 多けれど惜しまぬ記憶




(早春へ)

地を嚼んでゐる昼顔の長き蔓 引き剥がしては太く束ぬる

きうり草群れ咲く見れば早春のほんに小さき白き花なり

お馴染みの庭のものたち顔出すも後生の花の玉芽見えざる ==ハイビスカス

鳥たちの歌ひつ千切りつ まつはれる大島桜 地にも散り咲く 

儚しと思へど五弁の白き花拾ひて集む その柄に紅あり

風ありて揃ひてしなふ浅緑 川端柳しばし右向き

河口へと流るる花びら 一刻ののちまた汐に押し戻さるる

するかせぬ春雨の音窓辺なる薔薇若芽より雫落ちんとす

東京の土地に棲み分く人と樹々 自然係の給金如何に




(逡巡)

歌会に半日座せば駅よりは徒歩二千歩に夕闇帰る

切り岸に追ひつめられし刻を耐えへらへら生くるこれは剛さか

群青の春夜の月に見られゐる熟年夫婦互ひにうんざり

もし吾の勝ち残る日は吠ゆるべし孤独と自由なにより自由

もし自由得たるに八十路過ぎならば秋風にただ浚(さら)はれてゆく

もし今し自由なるとせよ 沈思せばわが無意味さに溺れ死ぬらむ

「ただ今の寸暇を磨くべし」などと御託無用の自由を怖る

今のみの時の砂なり こぼれゆく指の随(まにま)になづき倦むまで

虚ろなるどこも痛まぬ五感もてぐいと出でゆく春日の中へ





「春に浮かれて」

うんうんと地よりわきたつ緑児を雨とお日さま交互にあやす

やはらかき雨の夜明けて春の陽よ畠も鳥もそはそはとせり

九分咲きの桜トンネルたださくら歌なせぬ身の木瓜を盗みぬ ==花泥棒

七階ゆ桜や緑みはるかす 靄ひてつづく丘陵までを

青空に花珠(はなだま)延べてゐし桜 けふ楼閣ゆ探す雨中

ヒヨ一羽気弱そうなる眼の動き八つ手の小さき実がランチなり

更衣の季 出し抜かれては藤色や若緑なるうすもの買はず

皐月へと向かふ陽のもとどう見てもTokyoのビル色褪せてゐる

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