私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

鈴蘭とともに 2014年 たくさん詠った、のは確か

習字や絵をかきたいのに出来ないと母は嘆く
鈴蘭の巻

                   

「都会から鄙への帰路 ーー 首都高い往く」

東京の地下の深きにインフラの秘密の迷路作られてをり

ガックリと長い黒髪垂らしたる顔なきものの座しゐる車内

都へと集まる栄華 揺れながら名も無きものら希望にすがる

アイフォンとベンツの看板 レース編みのビルさへありて大樹をみおろす

コンクリに落暉眩しきレインボーブリッジいつか地下へといざなふ

歌会の帰路の次元は観覧車乗るか見るのか老いの好奇か

海底にトンネル掘るとふ力技たれかのサウンド享受して座す

旗雲が風速七メートルになびく空ゆうべ騒立つ灰青の海

木更津に入るや緩む美意識の家居低くて青田の中に

都にはあらぬ緑の集合体 天地の生気 形を得たり

髪にひげ 坊主頭も柔らかに愛でゐる緑野 たなごころにて

無事に二人産まれて後に五たりの水子の弟妹白紙のごとく

ひたすらにわが焦れゆく森の樹の香ぞ著るからむ伊勢のあたりは

その赤き十七夜月おさらばの挨拶のごと地球を見下ろす

コンビニのおのれ励ますかに高き声受け吾のくぐもれるかな




「六月の花」

雨粒を並べし茎の延びる先 ジャスミン咲けり白嬉しげに

梅雨のころ赤きつぼみのジャスミンの命の咲けばはかなく白し

紫のコスモスならずニゲラなり実から種生るさまゐとも変 ==クロタネソウ

馴染みなる野草出で来ずコスモスに葉の似たる花 今夏の客人

苧環のはりがねの茎ビンと揺れ花殻さはに種撥ね飛ばす

雨となる今宵を待ちて向日葵のたね深く植ゆたつぷり降れよ




「六月の顔」

わが顔のゲジゲジ眉を阿修羅像お持ちのやうに見奉るも

「イケてる」のつもりでゐたる吾の聞く悪しき母とぞ子の記憶には

侮れぬ激辛ラーメン 救はれし鬱に味覚を失へる寡婦

宿世より因縁あるかにこの下司を護りたるつけ地獄にて払ふ

八の字に眉を集むる夫の癖「普通の顔で!」と敵取るなり




「記憶の街々」

笛吹市の古き民宿夢のごと 湯よりもどれば葡萄冷え居き

広大なる市原市にもピンポンと鳴りて全域スモッグ警報

薩摩にも祇園祭のコンチキチ口開けて見き戦後の子らの

みちのくへ独り旅せばむね割かれ溺るるごとく歌とならまし

三角地に可愛く畝の立ててあり葱の出づるやひとり居なるや




「月を思う」

五月尽 西空低く眉月のつの字に傾ぐ「あらば明日まで」

宵ごとに三日月高くなりゆきて夏至過ぎの闇徐々に深まる

夏至あとも日長の夕べいつまでも月のカケラと割れたる記憶

寝る前に立ち待ち月を見に出でつ 指を幼にぎゆつとにぎられ

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