桜とともに 2014年終活が心を占める
運の良い母だと思ったり可哀想だったり
桜の巻
「依然として破れ鍋に綴じ蓋」
朝夕の不満だらけが不満にて自省すれどもぬるりとどぜう
かく妻に疎まるるわけ何故作る吾を頼る夫天涯孤独なり
吾が不満と隷属のわけ分析す地霊のごときマグマ危ふし
夫の弱みついに握りて牛耳ればどつちもどつち的夫婦なり
本心を言へと言はれてパニックに斜め左に視線さまよふ ==嘘をつく時左を見るとか
よくもまあ肌に若さの欠片なく夜明けひとつに皺深くなる
見慣れたる吾が顔に似て見知らねどトゥルーミラーに秘密のお喋り
==スマホのアプリ:非鏡像を見せてくれる
肌と肉のすべてにありし性感帯還暦辺りの脳サボタージュ
「たおやめぶり」
涼やかに立夏となりて莢豌豆花びら白きを付けて茹でたり
柿若葉の向かうを行き来せる猫の一心不乱わが無聊にて
奈良あたりひとり旅せば歌に溺れ言葉となみだ胸を割くらむ
たれの絵の手弱女に似む 白薔薇を五月雨に吾が清けく切りぬ ==夢二など
楚々などと言はぬつもりに苧環のうつむく色を四角に保存
サクと切る紫紺の茄子の肌の色 緑がかれる白さと思ふ
我が煮炊きおざなりなれど愛づるもの地より生れたるなべての緑
「嬉し哀し」
わがうからみな肌白く丈高し形質ともに凌がれ嬉しむ
四歳となれる孫よりそそがるる愛の心の大なり純なり
愛すれば純真なる愛返しくるる幼も犬も哀し痛まし
四十年代に未来学あり現実となりし西紀の未来にロボット
若人に無沙汰を詫びていまさらに悔いと面影この八の日に
汝れ消えて命の限り泣き喚く声の限りに共に叫ばむ
君にとり誰に相談したとてもどん詰まりなるそれが変はらぬ
君とてもできる限りはいそしめどそもこの道がT字路とはね
T字路を左折か右折あへてせず己が路より美しきはなし
「ただに光陰」
肌の色の黒から白へ変はるなど意外に速し三世代もせば
壮年でおさらばも良き老残の階段の前男盛りに
柿若葉の光るを喰ふ虫をらぬらし薔薇の新芽に黒点動く
季のものの描かれ美(は)しきカレンダー月々めくりポカンと終り
今生の別れなるかと去り難し半世紀ぶり友と出逢ひて ==たとえば同窓会で
夢になほ吾が求めゐる家なにぞ 仮の宿りをまた後にして
久しぶりの夢にてもなほ探しゐるその家を吾が知らぬかも知れず
「自然は歓びを」
パソコンを開きて度に息をのむ手塩にかけし木香薔薇 白
遮音壁に房短くてたたわなる山藤を見き ひと日を夢む
更衣の季また出し抜かれ藤色や若緑なる薄もの買はず
どつと咲き花弁どうと散り零し今はお澄まし桜の若葉
雷ありて五月の蒼を薄墨の美しき濃淡たちまち覆う
列島を覆ふ緑は十八歳さかりの色に吾が多幸感
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