私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

柿の実とともに 2014年 ついに魔女の一打に襲われるまで

私が動けなくなったと聞いて、母の気力も弱ったのか
柿の実の巻

                    

「暗い歌」

カーテンの向かうは雲の世界にて時流れつつ深閑とせり

どうしやう君との関係この先の難聴の日々生きむと母は

死ぬ前の最後の旅と名づけたき明日よりの刻道しるべ無し

贖罪も悔ひも涙も終はらねど落雷ひとつなづきを打てよ

また温き今年の立冬 同期会写真に映るここまでの幸

終の家「海抜2米」危険なり線路向かうの借家にせましを

空を掃くパンパスグラスさびれたる産業パークの野分とあそぶ





「履歴書」

鳴り響く汽笛に人らかけつけて幼き頃にも「人身事故」ありき

青森に着きたる車窓に雪ありて新品コートにはしゃぎてわれら

熊笹をふちどる霜のま白くて福知山音頭調べの優し

生け垣のくちなし薫る霧ふかき盆地に少女病弱なりき

広島の七つの河をまたぐ虹ともに見たる人疾うに身罷る


待ち合せ 駅より前に うつかりと 
降りてしまひし 新妻も 
神戸駅にて 降りたる夫も 会ひたさの 
絆信じて 歩み来る
架線下なる 路の雑踏 左右より 
はたして出会ふ 初の子を 
身籠りしころ ==長歌もどき


阿蘇の煙と白川流れゆくわが愛憐の城下町なり

ミュンヘンは来るも去るもトンネルをくぐりまた入る暗渠なりけり

平野から箕面の山へ至るまで三号線ぞひ民家ひしめく

区別無き小都市 吹田 池田 箕面 ほどほど麗し阪急線もある

出しのきく阪急そばの甘み好き白ネギも少し増やしてほしき

銀波なす内房線のススキ穂の消ゆる蘇我駅アナウンス忙し






「こぼれ種」

松男的短歌の「私」青虫や木や島なみの事象の一なり ==渡辺松男の詠い方

肌色の白と黒との混合のパレットを見きミュンヘン雑踏

男女問はず美形を撮るか描くかして壁に掲げむ花の絵のごと

秋闌けて小窓をたたく夜半の風エフ分の一に訪はれゐる

くろぐろとかぐはしき畠 目も舌も耕すも幸あした豊穣

朝顔にまみれて我は山男地を噛む蔓を渾身ひき剥ぐ





「ぎっくり腰になる直前、神ならぬ身の」
子の妻に煙たがられて我からはメールもせぬが彼女もくれず

霜月の菊よろばひて頼みなるゼラニューム咲く口紅色に

彼も吾もこの惑星の昏きより時の筏に滝へと向かふ

この青き球のめぐりの莫大のすべて致死なる眼を剥く寂寥

その先の曲がりて見えぬ明日の日へ引きずられ往く少し好奇心





「晩年来ると」

老年の次の晩年唐突に出会ひ頭の腰痛一打

病み疲れ夜の底に聞くエンジンの唸りて一台ややしてバイク

眠れざる痛みの極月昏々とそうか冬至へ向かふ暗さだ

午後二時のはやも傾く陽の中に短き眠り朔旦冬至





「競合」

沖縄の知性策略優れたる緑の生物繁茂する森 ==ゆっくりと「歩く」大木

目に見える世界の屋台に不思議にも数字の骨組み言語もあるらし

モンステラ葉を裂きぬつと押し寄せて日光争奪小窓のジャングル

看護師も先端技術こなせるを要求されて腕メモだらけ




「歳晩」

からからの枯葉保てる橡の森に照れる夕つ日茶色を生かす

朝夕に交はすメールの育みし同い年なり老いて得し友

易からぬ時を刻する肌えにも若き友見ゆ光るまなこに

歳晩の静寂ゆるがすエンジンの響き過去より悲しみ連れ来

ひたひたとどんづまりまで行き暮れて落葉の山道ひんやり下る

為すべきを子らは黙して為すならむせめて渾身わが生の句点

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