私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

鬼灯とともに 2014年 迷い道坂道

皺だらけの顔に、突然瞳が光るときある
ほおずきの巻

                  

「今年のTokyo」

どこへ行く地震ある島逃れむにテロや疫病難民溢る

「終活」の一なる遺言固まれるいつでも来いと旅のプランを

タワーのみ都会の墨絵に紅を差すお台場まわる秋雨一日

金あれば増やさむとてかビルが建つガラス透きゐて非在の楼閣

渋谷の夕きらめく雨に影黒き人らいづこへ 吾に宛てあり ==次男のライブへ

くつきりと水平線なす雲の彩メモリの限りに変幻捉へむ

腰ともに右足一歩前に出て衆生救ふと十一面観音は





アイスマン居たるところ 1」

正午より西へ西へと飛び行きてドイツに至るまで昼の空

深夜より飛び立つならば夜の側スーパームーンに訊ねたきこと

果たせざりし約束重く子の遺影傍へにおけど空のいづこに

映さるるアイスマン独りクレバスに果てたる背なの悲しく小さき

五千年のアイスマンなれば学者らの手袋白く解凍しゆく

互ひにもオオカミらとも戦ひし指の何かをなほ掴みゐる

アルプスの峰と背骨の幻に氷河にありしをデジタル化さる

命かけ出でし旅なり抑へきれぬ笑顔にて夫ミュンヘンに立つ

タクシーの運転手にも饒舌なる夫をこのまま置きてゆかむか

無口なるは悪しきふるまひ弾丸のごとく若きら子音を放つ




アイスマン居たるところ 2」

呼び名にてひるまず「ミリー」と呼ぶ吾の変化いぶかし歳かと可笑し

レンタカーの左ハンドル十年ぶりアウトバーンを日々生き延びて

訛りあるドイツ語多きサービス業はだ色雑多にわれもその一

懐かしといふべき街に日常の憂れひ忍び来彼は彼なり

嫁といふ言葉あらぬに諍ひし義母の香のして柔軟剤は

広島の泥流ロビーを圧したりホテルの客ら動きを止めぬ

樹々喬き花野の国なる七十年「イスラム国」とふ闇の口開く

古稀めざし欧州ブランド靴鞄こころ強くとコートもあがなふ

それぞれの願ひ叶えて離陸すもモスクワ上空Uターンとなる

見逃さず不運来たるか固唾のむやがて息のむ高級ホテルへ





アイスマン居たるところ 3」

空港は透明なる城くるま椅子に回廊めぐりて夫すべりゆく

窓ぎはの席あり難し貼りつきて小窓に写す空またそらを

硝子体に棲みつく飛蚊日の差せる視界に元気つい遊びゐる

夕空の上弦の月高きまま窓の後ろへみる間に移動す 

大気中を自転プラスの速さなる吾らに月は置きさらる

雲あらぬ真闇を凝視びつしりと星ありたるはまぼろしなるや

雲井より村落の灯の遠々に見られゐるとは夢思ふまじ

明時(あかとき)の心細さよ三角の白光ひとつ翼の先に

作られたる機内の夜に倦みて窓少し開けば射抜く神の矢

海面へ滑り込むかの危ふさを航空母艦羽田と呼ばむ

___