私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

風船葛とともに 2014年秋めくまで

南風激しい、心臓には悪いらしい、ペースメーカーある母
フウセンカズラの巻

                

「皐月の思惟」

回りゆく地球の仕組み止むなくてたちまち暗し緑と茅花と

老い人の植ゑゐる何かたちまちに人参なすびモロコシも出づ

吾といふ竜巻襲来ダンゴムシの団居(まどゐ)の夢を壊してしまひぬ 

日に幾度すいとガラス戸よぎる影尾のみ見わけて猫の道なり

星なくて機体ぽつんと光る夜墨一色の蓋あるごとし

実際は空一杯に星々の燦然と照る粒子に満ちて

そんなことが明日起こるとは知らぬまま蟻も子供も時の往くまま

文明の滅びの跡を覆ふとふ蔦ハイウェイの壁に清けし

しげりたる蔦のみどり葉ながれ落ち新宿変容 固きがやはらに

隣席の男タブレットを急かせゐてときに見やりぬ皐月の緑を

予報士の回す地球に都市と海 砂漠と森の静かならざる

移り来て三年の庭についに来ぬプリマドンナよもぢずり一花

待たるるを知りしやもぢずり不可思議の旅経たるらむこの庭に下る

歌会に寄り合ふ頭グレーのみ文化支へてややに気取れる

吾もまた気取れるひとり気合入れカットとマニュキアローズ香らす






「欧州旅行」

長病みの夫には死出の旅なるか追ひ立てられて運命に遭はむ

相剋の已まざる吾とこのをのこ ここに至れば別れえざらむ

青空に水平線なす雲の彩キカイの記憶に変幻委ぬ

シベリアより日本海超え山の国 くねりて細かき畑の色の差





「白い本」

もの書くと少女ながらに定めたり次第に上達するを信じて

わら半紙綴じて表紙に布を貼り言の葉書きし最初の詩集

母の語る里芋甘藷栗すべて蒸篭にふかして秋の子どもら

命尽き別るる刻限「惜しまるる人たれ」と聞きて六十年を経つ





「祥月命日15年」

巡り来る同じ問ひかけ 隔絶のひと日如何にぞ過ごせしものか

赤銅の皆既月食 けふの心 永き交信ふと終へむとす




「あてどなき言葉」

パン屑をたれか落とせしこの床に 拾ひて思ふヘンゼルなるらむ

垂れてくる髪を左右に止めたれば麗子像のやうになりたる額

意味不明のつちのこ空に見つけたり秋空いつばい伸びて疑問符

侵入され遠慮なく打つ蟻や蚊を 吾も保身に走る大雨





「今年の秋」

ワイン飲むアセトアルデヒドに毒されて 葡萄の粒に満ちる生命を

咲きかけの百合とつぼみのある一本買はば数日吾が幸ならむ

B B C 天気予報に日本が日々話題なり台風禍続く
 
ジャスミンにひしと絡める朝顔をはずす秋日の過ぎゆく香り





「神無月過ぐ」

神無月 神の居ぬ間の日の速さ不満はあれど退屈はせず 

ひとつきは孫悟空の乗る雲なるやヒッチハイクしていつそ暦買ふ

露草とヘブンリーブルーは兄弟か 空の涯の色濃きと薄きと





「おもわず苦笑」

鈴蘭のオーデコロンなどよからむか銀色斑入りの髪伸ばさむと

戦後より萌したるらむ自意識と教養そろへて老女歌人

五ヶ月児鼻に小さき皺寄せて寝返り成功たまらぬ笑ひ

コーヒーを知り初めしころ眩暈するほど強く甘くて一目惚れせし

和やかにニアミス避けて尊厳死がラストスパート夫婦の話題

あの頃に「お祭りマンボ」流行りたるわけ気になれどカラオケ中なり





「まじめに人生」

どれほどの人の知るらむ「人も蟻もすべて星の子」輪廻のさなか

実篤の言葉浮かべり美しく並ぶ瓦に雨の光りて ==「仲良きは美しきかな」

太極拳お腹の前の空間に両腕上下に自(じ)が魂抱ふ 

語りかけるマルセリーノに主の応へ給ふを書きぬ初めての詩に ==スペイン映画「汚れなきいたずら」

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