私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

3本の菊とともに 2013年 酷暑の夏

常温の施設にて天然と切り離されて母は
3本の菊の巻

        

「人体発火」

戦(いくさ)とふ抗(あらが)へざりしシステムに命断たれてひとりひとりは

茹(う)だる日も朝に露草夕べには白粉花のありて半月

覚悟して玄関開く 温気(うんき)むつと南国の葉も茹だりしなだる 

節電より我が身大事とクーラーをつけては矢張り消してまたつく

年ごとに温室効果の進む果て人体発火もありうべしなど
 
室温は三十一度 風吹けば涼しと感ずる蒸発効果

要介護の家族抱えて家々にいつか同じき塗炭の日あらむ

冬よりも「夏の風物詩」性に合ふカラフル単純南国育ち 




「子らの現状」

産後鬱長引く嫁と暮らす子はしなう真竹のごとくなりたり

コンビニでこの瞬間にベントーを摂る子の姿現にツイッター 

不憫なる愛(かな)しき子らのこの今を誰に托さむ生きよこの今

がつつりと心ぶつけて確かなる足場得たるらむこの子に恃む

天の青とふ名の朝顔 青年の死のごと開き切れずに残暑




「夏の混線」

銀河とは砂粒すべてばらまけるほど空にある 見えずともある

晴れやかに東の空に差し出でし 少し日焼けて葉月望月

驚きの胡瓜の甘さ 苗を植え水は天から吾はもぎしに

黒雲は驚かさむとて雷光を放ち放つも高気圧克つ

柿の葉がひとつ頷く 風にあらずさらなる頷き つひに雨粒

雨粒のつひに落ちぬと詠みて待つ我が謀りごと夕陽が笑ふ

まつすぐに屋根打つ滝の轟音も疾く遠ざかる盛夏の雨は




「お題:隙」

びつしりと引き出し占むる何ものか濡れて無機質夢に見たりし

椿の葉うらうら照れるその裏に毛虫隙間もなく無防備に

三世代の車四台隙間なく並ぶ箱庭夕べの積み木

カーテンの隙間の枝にひよいと来て見らるる知らず隙あり鶲




「識る」

「人に良き」もの「食」なると新知識ゴーヤ呑み込みおほよそ納得

納豆に飢ゑつつ海外生活の要は「メシ」なるアイデンティティ

欧州に住めば納豆食べたさの麻薬のごとくいつかいつかと

声帯の震ひて響くひと節の天与の輝き魂魄(こんぱく)にて識る ==歌のオーディション番組にて





「想像の恋」

諦めし片恋ひの数積もりゆき夢の絵柄に影さす小道

待ち合はせする仲ならず駅口に偶然装ふ勇気もなけれ

琴の弦と裾と折々擦れ合ひて音波寸秒天使の遊ぶ

茄子の畝トマトの葉陰い往く猫 ミニサバンナの空をふと見つ ==恋い猫




「秋彼岸の頃」

還暦は再スタートとうろつきて諦めの渕深くして古稀

曼珠沙華古りし御堂を包み込むひたぶるに直(ちょく)笑ひはじけて
 
緑陰のさびれし御堂を埋め尽くし赤き一念地を這う炎

彼岸過ぎ 柿の一葉(いちよう)染まり初む 柿と林檎を買へば重たき

毎週のペインクリニックへ通ふ路 楓(ふう)の移ろひ語り合ふ時 ==母とのそんな2年があった




「憶いの数々」

自(じ)が声か胎児の鼓動聴きにしか 迷ひ吹つ切る情只ならず ==妊娠初期に突如オキシトシン噴出

君の腕の甘い茶色の腕時計 似たもの欲しくて買って眺める ==けっこうセンスのある子だった

あやまればすむことならずわがこらをかなしませたるわれをゆるすまじ

弱音吐くメールは一度 まさに手を差し伸べる時逸したる者 ==インフルエンザだったらしい

タオルケット歯ブラシパジャマ 一夜のみ泊まりて遺す君の痕跡 ==最高の時1996年

幾年を音信不通か 日々遠き時の過ぎ行き数ふるを止む

いつまでも点滅するを遠巻きに涙のボタンに触れぬやう居る

悲しみを封印したる歌以外茶々をいれては好事家ムード

苦の声の多き命の時すぎて解き放たるを浄土となむ呼ぶ




「祥月命日」

完璧の体と心捨てて往く その算段のやや楽し気に

溶け合ひてしまふみたりの息の面輪 あの子この子と面影追へば

飛翔する朱鷺(とき)を竹にて編む男の聴くはぱみゅぱみゅプログラマーなりし==ドキュメンタリー




「神無月の雨」

苦しさに目覚め幾度も診察を思へど朝は行かぬ算段す ==胃酸逆流かと思われる

秋雨のかくも叩ける軒の端を覗きもせずに医者を諦む

一様のザの音深し 神無月の止まぬ雨の夜篭りて聴けば

幾千の小さき想ひ歌として日々に泡立つ 失はるるまで

身巡りのすべて無用となる定め 凡百の身のすでに戸惑ふ




「それぞれ」

ショートカットの似合ふでもなく歳古りて 奢りの黒髪来世に托す

雀ヒヨ鶲(ひたき)も寄りて遊ぶ庭 ふと飛び立ちぬわが気配して

椰子の実の歌のすべてが書かれあり シベリア時代の亡父の手帳に ==散々改作して

命なほいつまでと訊く母卒寿 負けん気のみに明日へ向かふ ==老いて生きるのも辛い

人生の驚きは何 吾が問ふにドイツ人の夫 即答「アイキドー」
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