よめなとともに 2013年元気だったかも
嬰児と引き上げてきた若き母
よめなの巻
「家族の像」
山羊さんの届くこと無きお手紙を唄ふ子の瞳はいつも濡れにき ==白ヤギさん黒ヤギさん
子の妻を娘と思ふ吾が心 それも疎まれひとり死ぬらむ
紫陽花のピンクとりどり呉れし嫁 緑の葉陰のその手美し ==母の日
夫はつね直球なりし何事も しかるに秘球飛び来て凡打す
「天下一品」京都の麺に狎れたるを「東京ラーメン」駅前も美味
五井駅の「東京ラーメン」しやつきりとをみなの作る薄口スープ
歌一つそこそこできて さあご飯作ろうと立つ善き日の厨
かゆみには抗ヒスタミン 炎症に副腎なんとやら貰ひにやつく ==皮膚過敏発症
「姫松葉牡丹再生」
一本の芽立ちも惜しみ残す庭にやがて緑の絨毯敷かる
律儀なる花と詠まむに名を知らず 報はれざりて牡丹色なり
遂に五月枯れたるままの茎の先赤らみ初めぬ 抜かざりて良し ==一年後に
きつと出る 無闇に確信してをりし 緑の針と命あらはる
疎遠なる友に縁あり教へらる 去年(こぞ)は知らざりこの草の名は ==40年ぶりに
堪忍の姫マツバボタンその策を我は知るなり秘かに詠ふ
「麗しの皐月」
わが庭の小(ち)さきものたち青冴えて ことに露草 黄の色誇る
虫も飛ぶけふ聖五月 白花をかかげて十薬ナースのごとし ==どくだみ
夏も冬も負けず静かに伸びし葉をくちなしなるかと思ひて愚か ==種子をなにか植えた
筍の爆発力を身にもらひ ふと不幸せ忘れたるかも
これからは笑ひて生きむ柿若葉 己が光の中冴え渡る
うつとりと空を映せる水張田(みはりだ)の黙(もだ)す深さを走る小波
「構造」
苦しくも充実求め生きし子の無一物にて残す白骨
柔らかきよひらの毬(たま)の中空に構造確かにピンクの花の柄 ==あじさい
父の字の残る手帖を充たしゆく 来ざりし時をわが片歌に
海を見る窓に たゆたふ歌いくつ読みて忘るる そこにある蒼 ==苦心甲斐無き歌作
わが内に異形なるもの生れ初むや 耳より溢れ口には出さず ==大丈夫か?
二の腕と小指の力学太極拳 攻防転々脳裏に描く ==なかなか奥深い太極拳
「聴く」
ラジオより幼き脳に聞こえしは敗戦国の言葉と心
夕食時ラジオの流すヒャラリコを待ちたる時代空を見詰めて ==笛吹き童子
ミュージックならず講談浪花節ラジオ生活戦後日本
下宿してラジオのFM炊飯器心に希望青春なりし
英国にEU可否の論議ありて口に指当てしんと聴く人ら ==市民の集中力
「若きら」
小雨けふ心揺れたることもなき 世慣れぬ猫と眼を合はせしが
若き猫「あれ」と言ふがに雨の夜半我を見詰めぬ 心あるかに
つややかなる眉と睫毛の気配のみ瞳は見えず早乙女(さおとめ)の立つ
はたちほどのうなじとほおのたをやかに素顔の娘あり人目嫌ひて
電車移動しつつパソコン開け本も膝に並べて若きの居眠る
「6月、新朝顔」
梅雨らしき恵み沁み込む地の上にふつくら伸びて朝顔の蔓
あさがほのたまゆらの青に包まるる家に目覚めて漂ひ歩く
颱風の風とおぼしき風圧は梅雨前線発 雨の先触れ ==上空に、丁々発止の空気の流れ
紫の新朝顔(にいあさがお)の無心なるをはや撃ちしだく台風五号
灰色の空のいづこに陽のありし夏の早がけ朝顔の彩(あや) ==台風一過たちまち晴天
「ミルクの連想」
給食のスキムミルクの思ひ出をちびちび飲みて眠りを招く
人の為す収奪行為 枯れ草を食ませ雌牛を乳房と化して ==どんな権利あって人は、、、(福島)
絞められし雌鳥の腹に卵数多(らんあまた) 大から小へ工場めきて ==幼時に見た
悲しみに打ちのめされて泣くときは死人のごとく大口を開く ==世界のニュースに観る
人前で泣かざる子供なりしこと誰にも言はず 今は泣き虫
笑ひたき泣きたき気分 躓きてヘハヘハ動く二歳の口の辺
捻れゆく階層ひとつよじ上り雲の果てまで負の連鎖ある
もぢずりの心「お慕いしています」言はせる男あれば出てこい
ねじり花登りては咲き延びる茎殊勝ならざる右巻き娘
毒づけど可愛さ余れる螺子花の希有の螺旋をほれぼれと見る
「梅雨明けて」
七夕の笹葉に映ゆる色紙は昔々の母の手作り
宝子の最後の写真をつくづくと美しと思ふ古りし日のまま
歌の題「硝子の心」のみ覚ゆ自死三万の始まりしころ
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