ヒヨドリジョウゴとともに 2012年 歌の旅だった
母は施設でも描く、わずかの天然を
ヒヨドリジョウゴの巻
「日本」
白き薄き花弁に紅さす山茶花を口ずさみつつ垣根を曲がる
書に倦めば夏は畳にどつたりと冬は炬燵にもぐる日本
女学生弓引く日々の黒袴ぴたり畳みて寝圧しの準備
ふるさとと言ふには淡き七輪の炭の香 畳屋 新茶を煎る香
山ふかき兵庫に行きて関東の人驚きぬ吾は逆にして
「銀杏の頃」
冷え込みし冬空の下振り返る黄色に温(ぬく)き輝く公園
この季(とき)ぞ五井駅広場こがらしに万朶と黄の鳥賑はひ立てり
黄金の五井駅前となりしかな風といちやうの切りなき乱舞
空色の川の巡りの野の上に風強ければ機影静止す
「血縁」
待て待てと追ひかけゆけば転ぶまで逃げて幼児の鈴ふる笑ひ
諦めし物理の夢の誇らしく理科の友とふ名を子に与ふ ==孫の命名
やつと一つ釣れし小魚焼きたてを親子で分けし白き河原に
物差しを失ひし親敗戦の子の自由あり終戦生まれ
生垣の中に小鳥のひそやかに団欒らしきご馳走は何
「老いる日々」
待ちぼうけ海路の日和ざわざわとをつとかつまか生き残り賭く
老眼に許してをりし隅々の塵灰色に西日の射角
新しき命は生るれ 去るわれら長寿百年めざせどいつか
瞼閉ぢなほしずしずと湧きこぼる冬涙雨金柑に降る
「百円バス」
考へは休むに似たりバス降りて光なき空おろおろ歩む ==cf. 馬鹿の考え休むに似たり
電線の警告空が発しいて見回してみる霜寒の朝
蔦の葉の紅の図案をつい眺め信号赤にわがバス逃す
生温(なまぬる)き凩激し人絶えて乗り合ひバスを待つ月忌日
「世間」
政権の右傾化支ふる若き声ネットの中の居場所しか無き
カラオケの箱根の山に轟ける唄声の快わがはまるやも
雪と雨のあはひのミスド小女子の小声の会話嗚咽へと変はる ==ミスタードーナッツ
天空の鏡面ビルに映るバスの窓にわが顔あり見詰め合ふ ==ビルの谷の首都高速
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