金木犀とともに 2012年秋をゆく
母娘というより戦友のように
金木犀の巻
「不祥事」
海底のトンネルなれば仰ぎみる ありうるなれどまさかと打ち消す
沖縄に後生の花と名付けられ現世の庭に血の色の美し ==ハイビスカスの異称
負の遺産そのままにして政争の泥沼どしゃ降り猫バスも来ず
知らぬ犬よ叫び絶え果て爪痕はドアの表に抉られ残る
哀れ友よ女ひとりに与へらるる宿世の行方受け止めかねつ
「追憶サイト」
限りなく思へしメモリわづかなり追憶サイトの写真取りやむ
秋の夕 薄雲に紅刷かれいて優しき指の存在(ひと)ぞあるべし
函館のまちの輝き独り観てかへりし青年十三年前
二千八年挽歌以外をおろおろと歌ひ始めぬわが老ひづきて
「青き朝顔」
珍しくなにか嬉しきことのあるそれが嬉しき秋の朝顔
五つ目の「大洋の青」小さく咲く 冬中育ち生垣となれ ==oceanblue
天の青ただ爽やかと思ふうち悲しうなりぬ秋風の中 ==heavenlyblue
名にし負ふ天上の青 霜月の寂しき色と横より眺む
冬立つも窓の向こふに淡青のヘヴンリィブルー咲けばたのもし ==立冬
百舌の声降る庭のすみ点々とスノーポールの芽立ちさみどり
夏蒔きし何かの花の細き葉がひそかに並ぶ立冬の庭
「晩秋の樹々」
混植の生垣に春香りたる卯の花の実はこの赤か黒か
ほの黒きネズミモチの実花札に見たる時より風情好まし ==花札にあるか?
槙の葉に丸き深紅のふと見えて番のごとき緑の玉つく
腕太きさくらもみぢの一本が道に火灯すやるき無さげに
駅前のさらしな通り閑散といちやうの黄にもなほ緑あり
時雨きて光る車道にカラカラと桜紅葉の落ちて色冴ゆ
「喪ったもの」
失ひし二千四年の歌を探す電子の海に浮きつ沈みつ
悲哀より零(こぼ)れたる歌また掬(すく)ひ紐に結わえて指の冷たし
いかばかり砕けたるかと旧友のことばますぐに津波のごとし ==長男を知る旧友
玄関に毛玉のやうなる仔猫いてその日の嫌悪すべて許しつ ==次男のツィート
ヤブ医者に中耳炎の子を強ひし我 愚かなりしを遠く謝る ==次男のこと
「落としもの」
潮流のまなかの島よ災ひのひとつひとつに路の尽きゆく
遠流にて果てたる高貴の才覚の遺せし野望定家へつなぐ
平安の絹の衣をかづきつつ望月ひとり忍びて雲間
「雨は雪に変わる」切なきメロディの呼び覚ますわがイヴのお話
「拾いもの」
老年の夢みる未来まづ古家買ひて友垣媼ら棲まむ
新宿の母とふ人か吾(あ)を見付け良き気あるとて嘘とも思へず
何を待ち時の流れをわが生きる本もニュースも過ぎ去る翌日
不可解のこの世のさまざま耐えきしは今ぞ涅槃に安らはむがため
重き鉄は地球の芯にて磁場の元 なれど呼吸は錆をもたらす
白々と砂粒に似る星たちとクオークとの差異ゼロいくつつく
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