ざくろの花とともに 2012年しだいに慣れる
しだいに施設に慣れた老母
ざくろの花の巻
「ひまわり1」
よき夢を 土のお布団そつと押し松葉牡丹のひげ根を寝かす
卯月より卯の花咲くまで抜かず置くキラン草似のほたるなんとやら ==トキワハゼとのちにわかる
かたばみと謎の藤色雑草に盾となるべしひまはりの群れ ==向日葵の生垣計画
ひまはりの抜き捨ててありいづこより悪意はくるやわが咎なるか
「ひまわり2 ラプソディ」
階段を駆け上がりゆく紅顔の子の後ろ影永別の駅
逝き果ててやつと向日葵どつと植ゆ稀代未聞(きたいみもん)の垣根六尺
向日葵はわれらが標(しるべ)あてどなき母もつ少年じつと見上げし
隣人には今年も変人ヤブカラシ露草ドクダミひまはり茂る
常の風台風にも耐へわが与ふ少しの水を待つひぐるまの
向日葵の茎をゆつたり巻く蔓にピンクの朝顔日々ひとつ咲く
はなびらのやうなる月を恋ふのやら秘かにも立つ夜の向日葵
「ひまわり3 生首」
ひまはりの下向く花芯熟れし実を地に落とすため食べられぬため
かく重き花首かかげまた曲ぐる向日葵の茎一握り以上
ひぐるまの黄色縮みてさも重きまろき花芯を下より見上ぐ
花首の俯くを切るその茎の意思ある剛さこの向日葵は
花鋏の切り残す茎数本の繊維に下がるサンフラワーの顔
敵将の生首取りてぶら下ぐる滴る重さ向日葵の頭(ず)の
花の顔みっつ馬穴をうっちゃりぬ無駄に曲がりし茎にはあらぬと
「真夏の空を」
文月から葉月へ炎暑続く日も刻よ余りに疾く去るなかれ
空中の蒸気冷ゆれば夜露あり小さき草々今朝も増えゆく
公園の炎と化したる樹のところ独りを歌ふ初蝉弱し
数分の通り雨過ぎ人も葉もはぐらかされてわづかの雫
まだ咲かぬ青き朝顔まだ生れぬ雲の嶺恋ふ梅雨明けすぎて
空の青見上ぐるたびに癒さるるとふ子の言葉わが青を着る ==twitterに読む
遠く住む子は夏空の紺碧をひとり折々うつとり見上ぐと
後ろよりもしもしの声振り向けば知らぬ顔する携帯会話
舟を陸に上げたる黒き波の山 異様の刻印まざまざとあり ==テレビの映像
「不二なる旧盆」
よその人をときに母より頼りたる君の心をお盆に知らさる
忌日にてひとりか不二かデニーズのざはつきの中桃ゼリー食む
竹取の媼は今も宝子と不二なる日々を笑ふて詠ふ
高きより撃つ熱風に乗り魂(たま)は身に近々と屋内吹き抜く
悔ゆるとも濯(すす)げぬ罪の重さゆえ浄らなる人嘆くも妬(と)もし
後ろよりひしと抱きつき離れざる愛深かりし大き父の背
「子ども」
汽車で行く昭和三十年青森へ鹿児島からは二泊の煤なる
ガタンゴトン電車をそう呼ぶ二歳児の世界は素敵に充ちている
幼らに試してご覧とわが言ふは失敗織り込みはげまさむとて
母の尾にじゃれる仔猫は叱られてほどなく捨て子となるを知らざる
「八月末」
喉元の違和感憂さのゆえならずけふ診断はドライマウスと
予報では三十一度まだましとバスで涼みて銀行その他
雨雲の不意打ち白き雨脚に道の黒々濡れてまた晴れ
天津風秋立つとやや思はせて驟雨の一閃こころ横切る
八月の終りの満月日に近し涼風こおろぎ空腹の我
「ひまわり 4終焉」
ひまはりの葉の上にある緑色めうな形はつがふカメムシ
風止みて向日葵めうに静まりて油汗して我は団扇手
この一本が宇宙ならむ虫身をゆすり蠢く 白き紙魚(しみ)のごときが
花球の奥にひつしり黒き眼のいたづらめきて弧をなす種は
モンスターの枯れし下葉は小言好き誰か居るかにざははとそよぐ
速やかに葉月も流れカハラヒワのみんな逆立ちひまはりつつく
カハラヒワの太き嘴ややピンクちゅるると嬉しひまはりの宴
河原鶸ひまはりの種子残しゆくたらふく食べてあとは眠れよ
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