山ぶどうとともに 2012年喜びもあり
母の姿は末路の我なり
山葡萄の巻
「閑暇」
ひとつずつ夏の花種思案中今年どうやらひまわり蒔ける
クローバーのふと匂ひきて遥けくもタイムスリップ野遊びひと日
山陰の汽車の旅こそ眠られぬ窓に果てなく荒波歌ふ
かけ声と出車(だし)の眦(まなじり)忘れ得ぬ昭和三十年のねぷた祭りに
海上を蒼風(あおかぜ)わたる 充ち満ちて無窮の声のあるかのごとし
人の輪を君も求めし ドラマにも親しき仲間共に働く
「老婆心」
初老われミスドのコーヒー飲みをればおかはり黙ってもってきてくれる ==ミスタードーナッツ
華麗にも若き歌人の詠む痛みわれらは過去にとうに慣れたる
老ひ人はいささか痛み知るなれど明日はまた未知をののき歌ふ
散乱の夢とむくろを踏みしだき軌道はずれず行くやら日本
「金色の大満月」
日は陰り南の庭にすず風の流るる頃合ひ西日は黄金
夕七時高く孤独に満月の星を隠してただ澄みし空
斜めなる月の軌道がかろうじて満月見する絶妙楕円
ETの大満月に向かふ影 最終便の光点滅 ==映画「ET」の名場面
「新樹」
さらさらと傘に音する小糠雨 薄き白布を新樹にかけて
紫と赤の花よりもたらされ薄みどりなるこのさや豌豆
万緑と言ふべき柿の若葉陰きらり幼きかなへび動く
早緑(さみどり)に洗い立てなる草も木も凄まじきまで大地の化学
きらきらとヘデラの繁みに花咲くは新樹のしたのこもれびなりし
母の日のブラウス持ちて青葉道 曲がりし背なの隠るるやうに
鉄塔はいづこのものぞ新緑の波わたりいく高電圧線
豊かなる川面に新樹の映ゆるさま早苗もそろひ輝き渡る
「孫歌」
婆ちゃんの長寿と愛に意味ありと学者の説けば孫歌詠まむ
「オバアタン」出会ひて笑ふ二歳児の別れのときは眼呆然と
孫歌に障りはあらめさはあれど愛の歌には変わりはあらじ
この赤き髪はたれ似と問はるるに心秘かに吾なりと思ふ
「月と日」
まどろめる伏月仰ぐ早出にて卯の花零しに追ひかけらるる
二十四年水無月とおか朝八時下弦の半月ひとりし仰ぐ
雨の夜を豊かに濡れし庭のもの朝日子ありてすべて為されし
陽のリングあの新月も嘘のごと望月白く空木に照れり ==世紀の金環食
台風の靡かす雲のなお残る青と新緑強く塗りたし ==早くも台風
「世を眺めて」
犯罪は社会の罪と思ふわれ困惑しいる言ひ募る人に
技術はや日進月歩といふなれど必然のごと失業増やす
白骨のひとつだに無し黒髪の一束恋ふる声三陸に
足元の砂崩れゆくもがくほど支へ失ふ間一髪の浜 ==溺れた記憶
満州を逃るる崖を落ちて往く愛馬の声を父は忘れず
「親と子」
親よ 子としばしの遊び童心にもどり楽しみ分かち合ふべし
携帯を手放さぬ親 ゲームとふ気晴らし得るまで子とは淋しき
忙しさに父母邪険なるときあらめバアバはキミの遊び友達
暖かき二歳のからだわが胸と膝にぴつたり収まるを抱く
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