私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

山茶花姉妹とともに 2012年生き延びている

我より23年いつも年上
おしゃべり山茶花の巻

       

「悪妻」

苦虫のやうなる夫の背を掻けばわれの手求め熊と蠢く

夫とわれ占星術の獅子と獅子譲るができぬ三十年戦争

真似事に手相占ふ もし夫に先立つとせば憤死なるべし

二十年死を傍らに生くる夫脅し文句の「明日やも知れぬ」

老医師の唸りつつ視る心電図つひにわれもと秘か喜ぶ




「この概念」

尊厳死さふみなすべき汝が最期 意に染まぬ生肯んじえぬと

つひにこの概念に遭ふ 部屋うちへ西日しみじみポトスを照らす

負けならず さうかさうかと誇らしくわが頷きて合点するけふ

揺り椅子に一日読書に音楽に時におなかに語りかけてし

あの夏はカッターシャツの君なりき七年ぶりの白き邂逅




苧環の露」

苧環のくるくる巻きの葉の中にたっぷりと露 みどりの薔薇よ

ほのかなる街灯受けて苧環の若葉に夜も乗れる白珠

さめざめと優しき雨の止みてなほ苧環ひと葉にひとつの光り

家々の影の黒きに春めける矩形の窓の童話の黄色



「2012年の立春

立春と思へば軽きスニーカー梅は見えねど笑みのほころぶ

らふばいと知らざりし枝(え)の黄の照りを傘閉じ仰ぐ花と雫と

春や春 山たたずみてさ緑の傾(なだ)るる先のせせらぎの音

雪の朝扉ひとつの先にある白き野に出づ仔犬の如く

凍り付きわが眼疑ふ画面いくつ祈り足らぬか平成の日々



「世にまたとなき」

子の職は実験音楽家 空(くう)揺する波に楽器は 要らぬと書きて

つひに立つ孤高の響き 伝へ合ふ波のうねりは無音でもよし

究めたき世にまたとなき超絶音 ギターと声の駆けのぼるまま

綿雪にふり積もられて白鷺の永久の眠りを知るは月のみ

漆黒の真中に月のあけし穴洩れくるごとく雪は放射す




「弥生の祈り」

仏の座氷雨にもあれ恵みとしひとふし延ばす弥生咲かむと

霧晴れてその名ゆかしき仏の座ひとつ紅咲く触るれば散りぬ

十五分の車中に遊び書きすればかすかに雨の育む春あり

菜種梅雨傘のマークと十一度天水貰へよ鉢花を出す

弥生の忌手を合はすれどふさわしき言葉のあるや頬濡るるのみ




「稀にはあらむ」

ぐずぐずと細かい歌は止めにして大風呂敷を広げたき野辺

今夜こそ大満潮なる繊月の笑みの上下に並ぶ惑星

薄やみの川に潮の盛り上がる雲の上なる満月の圧

少ししか無いのかまたは二十年の残余であらばじつくりいけるが

なにゆえか悲しき生の束の間に楽しき刻の稀にはあらむ

房総のひねもす唸る風の日に明日は我が身の弥生の噂



「春雨」

土砂降りの朝の駅には冴え冴えと本物の傘花と溢るる

濡れ縁に腰を下ろして春の陽にたださらされてけふは猫なり

雨止めば雀とヒヨが豌豆とブロッコリーの畝分け合ひて食む

薮椿いまだ在らずも日だまりに空の色せる花の群れ居る ==オオイヌノフグリ
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