柿もみじとともに 2011年やっと終る
白髪の母は運のよい人である
柿もみじの巻
「近き思い出」
けふの幸こそ忘れまじ満月を見て交はしたる親子の眸
仏桑華(ぶっそうげ)と呼ぶはなにゆへ緋の色の最後の心ふたつ開きぬ
藍色の冬至前後の沈みたる空の夕星頼りの光
大洗海岸の波営々と寄するを人ともの言はず見き ==亡き弟と
金木犀匂へるころも夜々母に待たるる身にていはゆる名月
「遥かな思い出」
緑山に向かひ手を振る 三人(みたり)して昼餉を共にしたる嬉しさ ==息子3人と過ごす
墓山に庭石菖(ニワゼキショウ)の淡き海 影か光か頷き浮かぶ
滝道を行く母の背のなだらかに美しかりし去年の秋
末っ子の初めての語は「アナ」なりし棒を差し込む木のおもちゃの名
寒の入り逃げも隠れもできぬまで四方の氷の袋小路に
僧ひとり橋のたもとに錫の音の時雨をつきて耳にはいり来
雪の中兼六公園新婚のそぞろ歩けば縄目正しき
「初冬の庭」
待ちかねし銀杏も散りて地の黄色 赤く溢れて山茶花すでに
切りも無く顔出す雑草小春日に莟もつある「あなたはだあれ」
かの人の世には知られで遺したる言の葉いくつ惜しまるるかも
ネギ人参キャベツと炊かむ昆布出しに自然の甘さあえて肉なし
日差し得て庭のいのちと過ごせしが醜き空となりて頭痛す
俯きて草引く耳にたれか来る靴音めきて固き枯れ葉の
濃き赤の最後の莟開きしが巻き戻しのごと仏桑華閉づ ==花期長いハイビスカス
陽も澄める部屋の朝ドラ午後ならば泣くなどせぬを堪え性なき
歩道にて白鶺鴒とすれ違ふすたすたつつつ行人われら
言い交はす家賃の支払ひ忘るるな命ずる人と実行役とで
自死したる娘を理解する術やある父はさまよふ電子の海に
人間にもの事の意味わかるはずなくば得てして不幸を招く
冬至まで辿り着きたる雀らは庭に残れる葉を食むらしき
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