私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

黄菊とともに 2011年歌と生きる

母の細胞は縮んでいく
黄菊の巻

         

「対話」

珍しく音聞かせたる風鈴は北国生まれ冬めく風に

軒端からそろそろ風鈴ドアノブに吊るせばコンとノックしてくる

ポーチュラカ霊気を浴びて甦る どうするつもり根は切ったのに

おじさんが「気持悪いよ暑すぎて」トンカチしたり雑草抜いたり




「秋思」

心憂くワード開けばひらりとぞイルカの出づる瞳賢し

夜に聞く屋根の雨音安らぎの深き息する柔き夜具うち

夢を見てたれにぞ告ぐる夢のごと憧るる人けふも現はる

言えぬことあれば歌にもできぬゆえ漏らす言の葉じぐざぐと舞ふ

空広きネットの窓から見る茜 旗雲ならむ布のいく筋 ==ブログに見る写真




「秋風」

房総に山も紅葉も見えずして銀のすすきと黄菊のみなり

海に生れ裏街道をヒイフウと獣めく風この雨戸まで

かがみつつ裏道帰る シャッターを鳴らす夜風とコートの抗ひ

もみぢ降る おはりの時は鋭さのゆるびたる指乾ける音す

北風が朝の小窓に貼りつきて千の声して轟きうがつ




「回想」

二晩の旅の夜汽車の座席より転がり落ちし姉弟ともども ==鹿児島より青森まで昭和29年

弘前の港なりしか桜とふ美しきものあるを知り初む

リンと聞く短冊もろき風鈴の津軽の音よ風強まりぬ 

春や春山たたずみて さ緑の土手に光れる津軽の小川

朝霧の彼方へかすむ電柱も物思はせし登校の道 ==山陰の町

遠きころ更級日記の姫君の物狂ひてのち哀れ世を知る ==源氏物語への物狂い

不思議かな房総半島平らなる石器時代の果てなき空はも ==昔の上総の国




「ゆうくん」

カレンダーの裏や紙切れ孫の書くひょろひょろの線有り難きもの

ゆうくんが天使の声で初めてのモチモチオイデ言ってくれたる

その声の可愛く嬉し夕空になべての悩み放り捨てなむ

ゆうくんと心を交はす言葉にて 普通なれども特別なりし

小柄にて言葉遅しと戸惑ひて敏き子なるをわが老婆心




「退職者」

アメリカのドラマの続編来春と 退職者にて過ぐるまま待つ

陽射しなき部屋に幾年住みたるか はなはだしくも黴は笑ひて

秋深み照り翳りする縁側に残り毛糸を鉤針に編む

戸も開けず籠るふたりに細々とたつきの柱個人年金

ブランドの腕時計もう用無しとソーラー電池を要に動く




「秋のイメージ」

アベリアと金木犀の路 母を看に白に紅さすむくげを曲がる

母を看に急ぎし坂の夕星とアベリアの香の思ひ出セット

年々に咲きてぞくれし紫の桔梗一もと置き去りにせし

人群るる動物園は夕映えてガラス越しなる獅子の遠き眼




「冬への観察」

住まい/
灰色の気を美化しよう真っ白い大根を煮るまだまだ我慢だ

冬の蚊の棲みつきてより幾日か遠慮がちなる羽音オスらし

穏やかに日差しは降るも霜月の雀の仕草 明日は来るやら

平屋建て方位斜めのマッチ箱 陽は四方より魔法を使ふ

北窓に西日は赤く隣り家の反射光とし東にも差す



自然/
見事にも庭一面のやぶからし 霜に枯るるや名残惜しとも

シベリアの虎の咆哮かくやもとケーブル揺する冬の切っ先

黄の帽子かぶるセイタカアワダチソウ 疎らに立ちてちかごろ小ぶり

アキアカネその名の由来これなるか赤の深さよ悲壮なるまで

青白き朝顔すでに抜きたるをなお芽の出でて継子扱ひ



自分/
退屈を知り初めてより引き込まれ裏目表目寝ねもやらずに ーー編み物

歌誌のはや11冊なり来年へ心預けて暦を集む ーー結社の月刊

真ん中に突っ立ってみる バス停の小道に刺さる腕組みの影

メモ帳も最後の余白 苅られたる実りの色の残す田の彩

___