黄菊とともに 2011年歌と生きる
母の細胞は縮んでいく
黄菊の巻
「対話」
珍しく音聞かせたる風鈴は北国生まれ冬めく風に
軒端からそろそろ風鈴ドアノブに吊るせばコンとノックしてくる
ポーチュラカ霊気を浴びて甦る どうするつもり根は切ったのに
おじさんが「気持悪いよ暑すぎて」トンカチしたり雑草抜いたり
「秋思」
心憂くワード開けばひらりとぞイルカの出づる瞳賢し
夜に聞く屋根の雨音安らぎの深き息する柔き夜具うち
夢を見てたれにぞ告ぐる夢のごと憧るる人けふも現はる
言えぬことあれば歌にもできぬゆえ漏らす言の葉じぐざぐと舞ふ
空広きネットの窓から見る茜 旗雲ならむ布のいく筋 ==ブログに見る写真
「秋風」
房総に山も紅葉も見えずして銀のすすきと黄菊のみなり
海に生れ裏街道をヒイフウと獣めく風この雨戸まで
かがみつつ裏道帰る シャッターを鳴らす夜風とコートの抗ひ
もみぢ降る おはりの時は鋭さのゆるびたる指乾ける音す
北風が朝の小窓に貼りつきて千の声して轟きうがつ
「回想」
二晩の旅の夜汽車の座席より転がり落ちし姉弟ともども ==鹿児島より青森まで昭和29年
弘前の港なりしか桜とふ美しきものあるを知り初む
リンと聞く短冊もろき風鈴の津軽の音よ風強まりぬ
春や春山たたずみて さ緑の土手に光れる津軽の小川
朝霧の彼方へかすむ電柱も物思はせし登校の道 ==山陰の町
遠きころ更級日記の姫君の物狂ひてのち哀れ世を知る ==源氏物語への物狂い
不思議かな房総半島平らなる石器時代の果てなき空はも ==昔の上総の国
「ゆうくん」
カレンダーの裏や紙切れ孫の書くひょろひょろの線有り難きもの
ゆうくんが天使の声で初めてのモチモチオイデ言ってくれたる
その声の可愛く嬉し夕空になべての悩み放り捨てなむ
ゆうくんと心を交はす言葉にて 普通なれども特別なりし
小柄にて言葉遅しと戸惑ひて敏き子なるをわが老婆心
「退職者」
アメリカのドラマの続編来春と 退職者にて過ぐるまま待つ
陽射しなき部屋に幾年住みたるか はなはだしくも黴は笑ひて
秋深み照り翳りする縁側に残り毛糸を鉤針に編む
ブランドの腕時計もう用無しとソーラー電池を要に動く
「秋のイメージ」
アベリアと金木犀の路 母を看に白に紅さすむくげを曲がる
母を看に急ぎし坂の夕星とアベリアの香の思ひ出セット
年々に咲きてぞくれし紫の桔梗一もと置き去りにせし
人群るる動物園は夕映えてガラス越しなる獅子の遠き眼
「冬への観察」
住まい/
灰色の気を美化しよう真っ白い大根を煮るまだまだ我慢だ
冬の蚊の棲みつきてより幾日か遠慮がちなる羽音オスらし
穏やかに日差しは降るも霜月の雀の仕草 明日は来るやら
平屋建て方位斜めのマッチ箱 陽は四方より魔法を使ふ
北窓に西日は赤く隣り家の反射光とし東にも差す
自然/
見事にも庭一面のやぶからし 霜に枯るるや名残惜しとも
シベリアの虎の咆哮かくやもとケーブル揺する冬の切っ先
黄の帽子かぶるセイタカアワダチソウ 疎らに立ちてちかごろ小ぶり
アキアカネその名の由来これなるか赤の深さよ悲壮なるまで
青白き朝顔すでに抜きたるをなお芽の出でて継子扱ひ
自分/
退屈を知り初めてより引き込まれ裏目表目寝ねもやらずに ーー編み物
歌誌のはや11冊なり来年へ心預けて暦を集む ーー結社の月刊
真ん中に突っ立ってみる バス停の小道に刺さる腕組みの影
メモ帳も最後の余白 苅られたる実りの色の残す田の彩
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