私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

山法師とともに 2008年ここまで詠う

老母まだあり天然を夢む
ヤマボウシの実の巻

          

「旅の空」

物の理や海碧くして空蒼し 前線の雲上下に裂くも

深きより隆起せる峰の先端を機窓に眺む 島国とふもの

四国のみ雲に覆はれ山々のくぼむところにダム湖の光る

半島に風車の並ぶ佐多岬 大分までは深き道なり

ここよりの眺め墨絵に描きたるは無からむ海と久住連山

山ひだに紅葉兆して延々と高圧電流運ばれてゆく



阿蘇五嶽」

一の子の休らふところ仏寝るカルデラ上空 五色の畑地

モダンなる巨人の風車一機のみが風をとらへて大車輪見す

去年(こぞ)の旅子と巡りしか外輪山 日暮れは去るらむ空港に降る

名をば呼ぶ 心傾け空しき名 空しけれどもわが恃む綱

呼びかくるその名無ければ良平の心も迷はむただ塞き上げて 
  ==半田良平「幸木」
 「みんなみの空に向かひて吾子の名を幾たび喚(よ)ばば心足りなむ」

子らと居てコスモス畑幸せの夢の如くに時に埋もれき




「墓石の前」

合はす掌はひとつの世界「大丈夫?」とか「あのね」とか長き祈りの

汝が墓は庭石菖(にわぜきしょう)に囲まれて 揺るる青色 日差し淡きに

ふたつなき儚き色よ 頂きし柿と楓(ふう)の葉 墓参のみやげ

想像の土を撫で上げ子らの面 残しおきたし 知らず涙す

すずかけの朽葉の道に面差しの似る姿あり夢にも見ずば



「みな大変だ」

香に充つるこの清明の秋日の置き去られたる今年は半月 ==祥月命日

探しゆく音の極北 繁茂するジャングルに食む己の言葉 ==次男の仕事

究極の「神の一撃」数理にて挑みいる日もサイコロ振らる

ぽっかりと空くとふ穴はやれやれと寝(い)ねむとするに正に現はる

ヘッドフォンは音の横溢 魂の慰撫を失ふ片耳壊れて
            ==純音の世界に浸っていたが耳鳴りの邪魔

囀りの澄み渡る朝 祈り湧く 鳥のひと日も楽しからめと




「晩秋の赤」

鳥影を休ませをりし枯れ松の先端落ちぬ墓所の辺りに

紅葉狩り滝道登る母の背の美しかりき影のかかりて

落葉道 無限の彩(いろど)り散りしくに 何故ここまでと対話切り無し

妄執の赤 霜月もサルビアよ咲き継ぎ止まぬ何に競ふか



「寒空」

冬空の蒼青(あおあお)としてけふ一つ越ゆるべき山ダブルブッキング

寒空にストッキングにて出陣のヒールは燃ゆる愛の嵐に

シナプスの壊るる音か耳近くザキッと白き電流異常

夜さ朝なかえりみて安心のひとつなく脳に鋭き警告音す

手短かに詣づるばかりの父の墓 木枯しチリと風鈴を押す

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