山法師とともに 2008年ここまで詠う
老母まだあり天然を夢む
ヤマボウシの実の巻
「旅の空」
物の理や海碧くして空蒼し 前線の雲上下に裂くも
深きより隆起せる峰の先端を機窓に眺む 島国とふもの
四国のみ雲に覆はれ山々のくぼむところにダム湖の光る
半島に風車の並ぶ佐多岬 大分までは深き道なり
ここよりの眺め墨絵に描きたるは無からむ海と久住連山
山ひだに紅葉兆して延々と高圧電流運ばれてゆく
「阿蘇五嶽」
一の子の休らふところ仏寝るカルデラ上空 五色の畑地
モダンなる巨人の風車一機のみが風をとらへて大車輪見す
去年(こぞ)の旅子と巡りしか外輪山 日暮れは去るらむ空港に降る
名をば呼ぶ 心傾け空しき名 空しけれどもわが恃む綱
呼びかくるその名無ければ良平の心も迷はむただ塞き上げて
==半田良平「幸木」
「みんなみの空に向かひて吾子の名を幾たび喚(よ)ばば心足りなむ」
子らと居てコスモス畑幸せの夢の如くに時に埋もれき
「墓石の前」
合はす掌はひとつの世界「大丈夫?」とか「あのね」とか長き祈りの
汝が墓は庭石菖(にわぜきしょう)に囲まれて 揺るる青色 日差し淡きに
ふたつなき儚き色よ 頂きし柿と楓(ふう)の葉 墓参のみやげ
想像の土を撫で上げ子らの面 残しおきたし 知らず涙す
すずかけの朽葉の道に面差しの似る姿あり夢にも見ずば
「みな大変だ」
香に充つるこの清明の秋日の置き去られたる今年は半月 ==祥月命日
探しゆく音の極北 繁茂するジャングルに食む己の言葉 ==次男の仕事
究極の「神の一撃」数理にて挑みいる日もサイコロ振らる
ぽっかりと空くとふ穴はやれやれと寝(い)ねむとするに正に現はる
ヘッドフォンは音の横溢 魂の慰撫を失ふ片耳壊れて
==純音の世界に浸っていたが耳鳴りの邪魔
囀りの澄み渡る朝 祈り湧く 鳥のひと日も楽しからめと
「晩秋の赤」
鳥影を休ませをりし枯れ松の先端落ちぬ墓所の辺りに
紅葉狩り滝道登る母の背の美しかりき影のかかりて
落葉道 無限の彩(いろど)り散りしくに 何故ここまでと対話切り無し
妄執の赤 霜月もサルビアよ咲き継ぎ止まぬ何に競ふか
「寒空」
冬空の蒼青(あおあお)としてけふ一つ越ゆるべき山ダブルブッキング
寒空にストッキングにて出陣のヒールは燃ゆる愛の嵐に
シナプスの壊るる音か耳近くザキッと白き電流異常
夜さ朝なかえりみて安心のひとつなく脳に鋭き警告音す
手短かに詣づるばかりの父の墓 木枯しチリと風鈴を押す
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