花と鳥図とともに 2009年を思えば良き頃
2009年より
先頃から安らかに眠ることがほとんどの母の見たる天然
花と鳥図の巻(中国の誰かの古い絵の模写)
「光」
我を見よこの光をと金星の傾ぶく頃の花びら月夜
飾り置くところも無きに花束の隈なく照れるわが定年日
駆け上がる駅の階段ワサワサと光りの中へ消え逝きし影
光すら余れるエナジー言い聞かし言い聞かしつつ磨く廚辺
朝光(あさかげ)に並べ置かれし玉露の麗しふする末枯(すが)れたる萱(かや)
「日常と非日常」
理由無き夜の不安を凌ぎえて朝には呻く悔ひの数多に
花博の暦をかけて十年を月ごと飽かずにめくる悲しみ
空なかに色厳めしき松毬の清く正しくうろこを重ぬ
如月のひと日のみ聞く姿見ぬ天女の横笛試し鳴きから ==名は不明
珍しき嘴白き鳥梅の枝をひらひら蝶に似てかひくぐる ==カワラヒワ
戦きてわが見し彼は堂入りと回峰行を経てのち如何に ==男 難行を果たしたると聞く
救済を世に約したる人ありてイバラの冠父は泣かぬか
青充つる頭上に白き真円(しんえん)の降臨といふUFOありぬ
「美しきもの」
白蓮は数多詠まるをわが見れば手袋さつと敬礼するかに
存分に張りし枝先百合の樹のかかぐる証その名の由来
しろがねの富士の高嶺の片側は初々しくも肌へ雲間に
鳥となり桂離宮を眺めては素なる美の夢蛇のカメラに
「ひととひと」
遠き日に我も母なり指さして記号を学ぶ幼の仕草
街往けば堪え得ぬ記憶おちこちに憤怒の形相または泣きつつ
手の甲の老い訝しむ明日へのわが好奇心皺みもせぬに
ネット界に隣る人無く彷徨ひて求めらるるを求むる吾か
子を祀るサイトを訪ねその魂(たま)の居るを見たりと言ひくれし人
「多忙な鳥たち」
うた鳥は二月祝日生業(なりわい)に空賑はせてわが捗らず
富士川を渡る列車に追ひ越され棒をくわへて黒き鳥往く
鳴き声も飛形も空を切り裂くに鵯(ひよ)も番(つがい)はひそと囁く
眠るがに俯きをりしキビタキがヒヨの響くにはつと天を向く
花を食べ上手に剪定せしあとの蕾の出るやまたヒヨの食ぶ ==カランコエ
「桜列島」
三月の高き航路を三日月の舟は渡れりはや西岸に
鷺ひとつ銀の翼をはためかせ社の池へ飛ぶ世は桜
雨となる桜列島一年のハイライト終え濡るるも恵み
天国に程遠き世に桜降る新芽の彼方の揚雲雀舞ふ
ワイワイとお祭り騒ぎ雲雀らのとことん陽気「あしたは七時」
水と日と時の成したるこの幹の記憶深きをわが抱きてみる
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