私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

ばらとともに 2009年の日々

眠って母は何を夢見ている
薔薇の巻

            

「小さな感慨を」

感慨のささやかにして消ぬべくを詞に拠りてわがひとつ置く

餌を前に連れを呼ぶらし高鳴きて順位を待つや鵯ホバリング

野良のチビ赤き首輪をつけられて何年生きしかはねられてをり

朝刊をバサリと閉ぢぬイチローの笑顔混ざれる交々の世を

日々語る米寿の母の逸話にはその母の愛食に溢るる ==私の祖母のこと

寺子屋はいろはにほへと読み書きのほとほと深き始まりの音



「箱根八里」

霧と靄箱根八里に雨降りてひとりの旅は明けもやらずに

仮初めに巡り合ひたる旅宿のひとの言葉のわが核となる

夕光の慰めの手が薄雲を富士にかき寄すたれの描くや

東雲(しののめ)の囀りゆかし花追ひてのちは夕星(ゆうづつ)待ちて寝付かむ

嵐来て見事なるべき花房の夭折のごと藤は崩れつ

抜きん出て悲しみも美も感じたる夭折の子に敢闘賞を




「自然と人間」

かへるでと西洋杉の枝先は園(その)への扉 遂に触れ合ふ

年毎に切らるるもなほ楠の葉の頬紅めきて諦めず萌ゆ

遠山の斜面に散れる蜘蛛の子の脚めくショベルカー緑を喰らふ

押す弓手(ゆんで)二の矢たばさみ引く弦は自然(じねん)離るる即ちの音

巨大なる眼をわが持てば宇宙すら水晶体か雪の結晶




「雑念」

起動して多分ダメだと思へども真昼眩しみ言葉待ち居つ

群れながらも上には上を狙ふ性(さが)アイドル担ぐ歓声も性か

苦しんで生まれ苦しみ死なしめるこのいたづらを為せしはたれ

敗戦のあとの全てを生き越してこの顔になほ己れの弱き

要りさうに思へばこそのガラクタに付き合ふ所詮落花の時まで




「脳内」

楽音の中にこもれる終日の我のいくつか明らかとなる

脳内の信号つながるまま任せ思はぬ道の開かれもする

バイソンの群れは怒濤の命なる身ぬちに充つるものを吾も持つ

薄汚れどん詰まりにて花と詩の美しき夢振り絞る夜



「自ら美し」

富士川をわたれる速さ幻の田子ノ浦より見きとふ高嶺

矩形なる深紅の羽に不器用に飛ぶ虫を見つ夢にあらなく

花日記に白きレースの帽子よと母の注釈山法師の絵

宝ともひとつの蕾育めるダチュラの広葉紫外線を欲(ほ)る

夕暮れて白さ極まる八重咲きの十薬あるを思ひては笑む

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