私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

ダチュラとともに 2009年花にうち過ぎ

母の絵の中に永久に咲く
ダチュラの巻

          

「数字」

六十年時が造りしわが顔の空疎なることただに破廉恥

六日夜ネットを切りぬ七日のみ残るひと日を如何に何処に

六月の湿度柔らに充ちてゐる朝のそよ風 ドミンゴの声す

人ら持つ美しき庭羨もしくて家造らまくゼロと一との



「他人の成否」

水路掘り美田を作ると図らへば泥炭乾きて森にくすぶる ==どこかアジアの国の思わぬ破綻

夫婦して登りゆくべき谷の瀬を刺違え落つハリネズミとし 

感動のノーベル賞の田中さん越えし一難愛もて返す ==田中耕一さん、二人の母の愛に報う

ちょうどよき歌の長さに英一の裸の心露の音聴く ==歌人松村英一、六人の幼児を失う




「緑雨」

挽歌のみ湧き出づるかな長梅雨の穏けき日々の作用にやある

夏至の夕真直ぐなる雨潔く緑明るき世の様や惜し

賜はりし予定無き日に思ひ付く風来坊とふ言葉懐かし

緑雨(みどりあめ)ふと居眠りて目覚むるにダリアの珠の白く浮かべる

朝顔の蔓の延ぶべき行き先に折鶴蘭を秘か垂らして

蕾あるダリアの茎の強靭を汗を拭きつつ呆けて水無月




「偲ぶ歌」

嘆きなき人はあらねどイカロスの無情の翼諦められぬ

子は水に放り込まれて浮かび来て後はイルカの如く潜れり ==昔水泳教室で

旧友へメール打ちいてふと浮かぶ哀れ亡き子もわが同窓生

些事のみにかまけて亡き子見ざれども後ろ姿の遠く行くらむ

この日頃なほざりにせし吾子よ常母よりはるか先を行きたり




「あれこれの人」

英一は一呼吸する間に知覚せる木も子も空も哀れ歌ひき

純音のマリアカラスは周辺の我がカラスらを整理しくるる

あな我に価値など無きを無用なる破廉恥なる者なほもあがくか

ざる蕎麦の旨さを知りし大丸に初恋なりし夫とは離かる




「寸景」

ちさき猫まさに横切る庭先をちさきカナヘビ喜びくはえ

カナヘビの三寸もなきがチョロチョロと暮らしをりしをちさき猫獲(と)る

意外にもヒヨは小心仔雀の羽根震はすに餌にも寄らず



 「天と地に」

アレーナに五百の踵(きびす)地鳴りして転身幾度吾もそのひとつ ==太極拳師範となる

右回り胴衣の袖の描く弧の空気に充つる無音の音波

五百人の千の腕(かいな)のゆるゆると回る体に引かるる移動

息のみが律する世界てのひらの先の虚空を彼方まで押す 

夏葉月 陽は強力(ごうりき)に大輪の向日葵回すここあそこにて

カナカナと雀と猫とヤモリらの行き交ふ狭庭早朝曇天

カナカナのひとすじの声夢に来てブラインド越しに覗く惑星

___