私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

白百合とともに 2008年の心

母の描いた天然
白百合の巻

          

「無頼の子ら」

これの世の在るだに胸のふたがれて歩きつ見つつ低く嗚咽す

まな裏にいがぐり頭ふたつあり一人を足してわが誉れとす

われもまた命育む者たるかわれを出でたる無頼の子らの



「末の子の許嫁」

許されてあれ無為にただ平安の絵巻物見るわが佳き日々に

吾子の居る隘路(あいろ)に愛(め)ぐし藍色の華 一筋の日差しに立つと

汝がための魂の糧(かて)白き花 双手(もろて)に抱け心ゆくまで



「皐月の白」

ことのほか五月の庭は白多しこでまりバコバ虎耳草(こじそう)どくだみ

やまぐわの苞の一枚風の道白き歯車魔神の走り

山法師けふ最高の小高さよその身ひとつの白き念力

いつの間に折鶴らんの花の腕香り差し伸べ触れにくるなり

青空にこぼれ落ちたるくもの糸 氷の軌跡左へジャンプす ===五月晴れの飛行機雲

こは人の昼の月とぞ呼ぶものか皐月半ばのアジアの空に



「鉦を叩く」

水無月だよ」鉦高らかに打ち鳴らす尋ねてみたし月の軌道を

ここまでとページの角を少し折る闇に静かにおやすみと言ふ

わが影の移ろふ道に鳥影も疾走するなり撫子濃き日

ライオンのわが縄張りの湧き水の清冽なるを見回りて往く

夢のごと長き夢より目覚まさる君の住まひを訪れをりし



「地の底で」

父母の仲良きを見て夫婦とはさふであること疑はざりし

破れ傘雨に叩かれ柄も折れぬののりし止めぬ二人獣道

緑陰に足りゆく心天然の我と彼なり進化半ばの

夕光の坂にひそけき忍冬(すひかづら)ひとに待たるる吾の吸ふ息

つきつめし一人の心 歌壇欄われに煌めく宝石探す



「蟋蟀 こほろぎ」

けふの日のこの哀惜に出逢ふかな カナトコ雲は怒鳴りているぞ

こほろぎの呟くに似る吾子の声 蝉なら叫べ祈れかまきり

耳深くこほろぎ二匹高低く響き止まねば夜を聞き入りぬ

開け難く立ち去り難き禁忌の門 園の激しさよろぼひ出でぬ



「じみな婚姻」

純白の花嫁の手に委ねし子 区役所に寄り勤めに行きぬ

細胞よ漸次滅びに向かふべし 若きらは発つ未だ見ぬ道

まどろみに新婚の屋をおとなへり 支へ終はれば巣立ちぬ空へ

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