ミニ薔薇とともに 2010年を経て行く
母娘のいつもの話題は天然
ミニ薔薇の巻
「旅路」
黄葉せる枝に小鳥の一羽来て淋しくしんと見渡す正午
剥落の途を我よりも若き夫行かずばならず黄にぞ萌えかし
抱き合いひしと口つけ合ふてなほ飽かずもだゆる心なりけり
風も居て花も笑顔も揃ひてし友の写真の此岸の旅路
「神無月」
十月の高空に浮く半月の淡きにカンナ燃え立つ朱色
赤き花咲く条件は二十五度十日続けば不思議の道よ ーーー曼珠沙華
命日のメール送るよ新月ね日と地の間そこらでいいの
十一年経ちても重き塊をいまさらのごと葬送の曲
愛しいと思う者たち遠いけどわたしの傍にいないけれども
風立ちて秋思の日々を流さるる我に合図を感じさせてよ
頬につたふものはぬぐはぬ砂粒のごとき吾が悲の感傷ひとつ
「立冬の世」
幸子とふ名前のありき黄の蝶の小さきが遊ぶ幼の墓碑に
黄の蝶の霜月に生れ小春日の自由ゆらゆらガラスに影す
くるくると柿の実むきて素粒子をかりっと摂り込む脳への流れ
霜月は種も熟成ころころとしっかり黒きエナジーここに
ベランダの万年ホープ肉厚の白の斑入りの無名の青年 ==桜蘭かとも
竹林にさえずる小鳥なにごとの話かふとも知りたき鬱屈
キチキチと鵙の声して立冬の縞蚊死を得る人家に迷ひて
朝も夜も散々なりき明日もまだ元気はあらむ立冬とかや
「月の恵み」
我がうからかくも優しき質なると花野そよがす無窮の御手に
七年の間に生ひ立ちし汝が姿見上げ母ぞと告げし日ありき
唐突に月の丸き眼椋鳥の眠りの歌は夜空を満たす == 満月辛うじて母子を遭遇さす
半月を見しより七日椋鳥の樹と暗雲を洩るる円月 ==七日間、空も見上げじ
雨雲のふと分たれて望の月夢のごとくに七日暮らしき ==厚い雲の波のすきまより
人事の間かけぬけて逢ふ満月の光は雲をはつか突き刺す
忘れまじ雲間の満月稀人に心傾け逢はむと待てば ==年に一度逢ふ息子
「シュールな夢」
満天の夜も仇ならむ人集ふ虚飾の街のきらめき無くば
土間口にぬっと突っ込む核心の言葉からりと自在に転べ
幻想の長き枝葉の伸びし先青き幻そは花か実か
放り込むスモークサーモンがっと噛む熊の歓び野生の目覚め
クリスマス常と変わらぬ朝まだきイエスは誰かわが確信得る
「予感」
正月の箱根マラソン走るかの勝負の年を震え迎ふる ーーー冬のマラソンプランひとり練る
戦ひの始まるは今裸木に拠れるもののふ友軍もなし
堪へかねてつひに落ちたる悲しみの結晶のごと雪は白かり
幻にあらず鋭き白き刃はどうするのだと闇を横切る
雪雲のあるに窓辺の明るきは冬至の庭の透き徹るゆえ
「お母さん」と子が書きているツイッターのそれは吾がことコピペしておく
陽の差すを待ちかねをりし時終はり花崩るがに笑まふ夢見き
「急転直下」
星の死のかけら無数に迸り雷光として吾をつらぬくと
風邪引きのさなかひらめく引っ越しにまず捨つるもの一番決まる ーーー放逐と要請による決定
see youの辞書の文字さえ優しげに子に疎まるる日の下降線
さにあらず子は信ずべし溺るるを凌がむとただ世を渡りゆく
責むる子は多分正しき此の世からはずれてしまひしわが芯の無さ
「庭の冬花、これを最後と」
顔を出す赤き山茶花五個ばかり緑の綿に包まれて冬
冬灯りいつもの白きさざんかに隣れる柊師走を香る
入魂の一陣吹きて染め上げし道の華やぎ落ち葉一期と
花弁の白きに紫紺の斑の美しき昼顔の種子集めて別る ===引っ越しのこころづもり
昨日の脚の欠けたる蜘蛛は今燃え立つもみじ知るなくて消ゆ
若きよりひとつの疑問紅葉も青き若葉もなぜに美なるや
耕して美しきものなべて植え生れては散るを神は眺むや
名も知らぬ紫なりしが花茎のひれ伏すさまに白くほろびぬ
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