私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

えびねとともに  2010年を体験する

母を慰めし天然
えびねの巻
            
             

「夏の華」

詩心も枯るる時節や汗ふきて盆に夢見る天のカナカナ

花弁のふるる波打つ百日紅さるすべり) 見惚れし頃のセピア色の子

吹田市さるすべり路 ふるふると小さき紅(べに)たち笑ふがに散る

このまろき生物園の百日紅 ぐいと伸ばす手漆黒金襴(しっこくきんらん)

なきがらにクロマニヨン人の供へしは矢車の花青色なりしか

朝顔も露草も青深き青東雲(とううん)かがよふ草生(くさお)の中に




「汗か涙」

いつ埋めし枇杷とアボカド美(は)しき種この夏不意に目的を知る

ひとときを酷暑の外出ぽろぽろと汗か涙か生きているらし

大切なくちなしの子がちぢれゆく酷薄の熱すでに手遅れ

薄紅の鳳仙花さもいじらしきなどか思ひぬ風船かづら

ケーキ屋に三メートルもの向日葵が甘党たちを風に見下ろす




「人と遇ふ」

自転車のカッターシャツとブラウスの眩しみ出遭ふ白く笑ひて

手のひらを立てて左右に振りながら出逢ひたる角永久に去る駅

我にまだ爪のみはなほ美しきキュッキュと光らす息と会ふからに

この刻の幻の世を瓏々と欠けたるも無きをみな過ぎ去る

友ありて異国に暮らす花種を互みに送る同じ庭なれ

さざ波に朝日影きて細長き矩形の黄金(こがね)現れ渉る




「手荷物」

甲州へ手荷物ひとつ身巡りを小さきに限りただ歌のため

塩尻になどてかひとり佇ち待てばつばくろとてふ低く飛び交ふ

空かけて大き虹見しきのふゆえ今日かく夏の山と大雲

娘ごが駆け落ちせむと家出して捨てられしごと自由の宿り

こんなにも羽がはえたる母として子たちに送る濃い葡萄色

わづかなる音に縛られ歌を問ふ行ひをかしと寝転ぶ畳

古きより女性の歌ふ充たしたき不定の器ひと掬ひずつ

一人旅終えて家事する新しき心に今も異郷の眺め



甲州路」

夏緑 人家の隙間に林道の小暗く誘ふ深山(しんざん)の口

中津川へ小川の数増ゆ白々としぶきの息吹耳詰まりゆく

案山子居て早稲田を走るコンバイン石畳敷く木曽川渓流

橋三つ南アルプス縦に見て山峡三つをスックリ跨ぐ

湯の花の臭気も良きか民宿は葡萄畑に沿う中央線

甲府から南に下る左窓群馬の山か白雲湧き出づ

天下の嶮箱根の山は足駄がけ堂々唄ふ墨絵思ひつ




「新涼」

我が宿の疎水に白萩傾きて年毎咲きしハイティーンのころ

新涼の庭の緑も瑞々とチロルのランプ幾つか灯る

隣家よりいつか来りしコスモスの移ろひ咲きて去年までの縁

彼岸過ぎ途方にくれて信号の下に待ち居つ白粉花と 

終はりへと進むひと日を秒針の動きのむしろ目に不思議にて

黄昏るる街の硝子に反射せる二つ目の月またあの窓に

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