私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

つくしまつもととともに 2010年の夏盛り

老い母の小さな頭
つくしまつもとの巻
         
          

「恋は闇」

我が姫は月の都に住みますと悲しき杯を陶然と空く

陶然と月の都の有様を酔ひて思ひて竹の大臣は

汝は誰れそさみどりの風蒼々と青海波舞ふ源氏の君か

愛しさはいづこより来る溢れきてひとを幼き弱きものとす

ある時に男嘆きぬ終生の恋の泉は枯れしとてなむ

ほのかにぞ想ひし人の栄転を見送る日なり遭ふはなからむ

さはしかり恋の病の喜びの抗ひがたく生の糧なる

謎めける恋といふ味匂へどもすでに腐臭の覆ふべけんや

恋心ぬかるまずあれ桜いろ淡きままはた蕾みのままに




「混濁」

我忘れ怒鳴りいる夢とみに増ゆ心に積もるものをいぶかる

夢の中バスに遅るるくり返し猛り狂ひて目覚むるこの世

多様なる思いを求めクリックするこの玉手箱遠くて近し

細胞のひとつの生るる確率は有り得ぬ程の奇跡の集積

浮遊する身の一ミリもなき羽虫小さきゆえにか命わが断つ




「輪廻の輪」

知らざりしニセアカシアの花房の匂ふ木下をただに彷徨ふ

樹の花も次のステージ紫を凛々しくかかげ桐はそよぐも

さつさつと風捲く御幣首延べて誓へる二人ふとおののきぬ

つるばらと尺取り虫とベランダに遊ぶ雀と輪廻の輪かも

我が手こそ大き手である糸くずのごとき毛虫の命を握る

可憐とも思へど揺らぐ春紫苑を選び引き抜く莟もたぐに




「葛藤」

顔拭い偽りに生く苦しさの本体暴けばわが耐ええずて

失望や未練や意地や計算や憎悪や慣れや見栄や諦観

荒波の寄せ来る浜に仁王立ち女房の意地をみせてぞやらむ

並び立つ金星と月ひとときの縁しの光神は戯る

夕陽より光放たれ突然に円柱二本に恩愛の赤




「雨水」

夕顔の面差し浮かぶ水無月のけふの意味するsynchronicity ーー共時性

望月に差す青き影雨雲の彼方見えねど忘れやはする

青梅雨にあおらるる葉や飛沫らのはねて散らばす光や影や

いづくにも泥沼あれど白きハス名残に小さく咲かさむ願ひ




夏至の月」

夏至の夜のかすみし半月はるばると遠き人へと何か遣りたき

葵咲き父の失望ひしひしと胸に食ひ込む文月ここのか

祖母の呼ぶ盆花の色オレンジにのうぜんかづら花石榴など

父なのか甘え親しみ有り難うも告げず別れてけふの合図か

歌詠みて仰ぐ月影 山の端へ別れて遠きいづこ送らむ




「どこか気味悪し」

揚羽蝶五つも舞へり変態を経てぞ寄り合ふすひかづらの香

風なきに天使の喇叭揺るる刻煉獄よりの念波と戦ふ

舞ひ落ちし火花はジェラシーこれきりの恋と思ひぬ冷や水透きて

暗がりに蛍袋のなよなよと見つけらるるを待ち居て白し

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