私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

だいこん草とともに 2010年まずは春

溶解する母の脳に
だいこん草の巻
                

「弱虫」

結局は憑かれ浮かれて子が生れて誰の命(めい)なるこの大騒動

殺さずに生きられはせずこの命あたら連鎖すほらまた消えた

一年の別れ辛くて諦めし夢が二人を別れさせたり

わが弱さ突貫出来ぬ弱虫のぐずりてばかり夢追ひ止まぬ

ときに死と老いらく浮かぶ さあれ見よ壊れても行く有森裕子 

子らはみな母の誇れる一等賞二人残りて愛の余れる

キーボードに手を触れて待つ肩越しの自死の子の瞳(め)に頷きうなづき




「弟 命運」

闇の中泣くや秘かに俤の幼く悲しわれら頼るを

チクチクと小鳥鳴く朝母を連れ弟愛し見舞はむ旅へ ==弟 膵臓癌とて

やつれたる弟の亡父にそつくりと知りて戸惑ふ時のシグザグ

我が罪と我が悲しみを知る汝(なれ)と思ひて救ひあるやう祈る

ぽろぽろと歌は零(こぼ)れ来 死に近き弟もあり子へも参れず

頼らるる身となる我のおどろにて四方の山々守らせ給へ

思ふごとく動く手足よバスタブの白く清くてわが生きのまま

黄の梅の匂へるロビイに礼(あや)されてサービスのプロふと信じたし




「空をあおぐ

あらたまの望の月より大量の日輪反射首も折れよと

寅年の二十日初鳴き如月に渡り来て去る春告鳥は

寺は古り東京タワーに照らさるる愛宕タワーは肩すぼめたり

滲みつつ東京タワーはオレンジの画布を配して自らは消ゆ

詩句ひとつふと生まれたる愛しみの枝の彼方に青きシリウス




「無常 祈り」

夫を見ておれば悲しもその母の胸痛むまで祈りたる幸

お彼岸へ充ちてくる月 ゆりかごの揺れつつ永遠の路をこぎゆく

咲けば散るいのちのさだめ膨らめる花芽のはらり舞ふがにも見ゆ

カフカ書く犬のごとき死待つのみの生きとし生ける涙あへなし

生活は徒歩十分とふ圏内に逢ふ人五人自然とネット 

網の目の在らざる世界ふと光る心のかけら再びを遭ふ 

久方の空色ありて野紺菊の枯れしに注ぐ祈りの水を




「少し 春」

はなびらの散りしにあらず花のまま敷きつめられて天地は盛り ==雀が桜を茎から落とす

人の身を思ひて悲し散るために桜咲くには夢あらねども

花散ればあとは無為とぞはかなくて明日何せむ時よ過ぎゆけ

花筏たゆたひて浮くふるさとの負けて悔しき花一匁

忍び足春のいたづら後ろからわっと咲きいでもう止められず

ふるさとの借家人よりぼけ酒添へ小粒の金柑母宛にくる

3Dの絵を透かし見よ三次元の深みに跳び込む脳の驚き

わが脳に騙されている視覚より受けしデータを三次元に換ふ




「へ曲がる」
 
高きより空を斜めに降りゆくは鳥の形の生の意志持つ

オリオンの赤きと青き怒り肩ダイアの帯に銀河を吊るす

街路灯今しも灯る初恋の君と魅入りき彼方に続くを

嫌なことちらと思ひて唇がへ曲がりいるを急ぎ訂正

センスよく暮らしピアノも弾きたしと思ひつつせぬ自由余りて 

疎ましき猜疑と嫉妬切りのなき論議待ち受く足取り重し




「疑問」

星の子と夢見をりしにそはリアル 鏡合わせの命あるやも

うっかりと踏み込みたりしこの小道行きはよいよい沼までつづく

わが自由など求めんや死にし子は自由が丘に夢を追ふらむ

旅に見る若き父親種々ありて妻に劣れる器量の多し

ああ人よ生き物として踊りつつただ生きて死ぬそれでいいのか

恋がふと美しいから魅入られるふと神秘とかヒューマニティとか




「遅春」

空高く芽吹く枝先新しき桜なほあり遅春にして

腕広げ花のうてなに座しまして命の星に溶けゆく心

惜春と言葉浮かびて蘇る汝が終の日よ忘れ雪散る

これにてと桜舞ひ散る今生の別れ別れて巡りて遭ひて

桜散り少し壊れて昔日を憧れてをり滅びの美学

北窓を任せて長きゼラニウムくじけず赤し旧友のごと

嵐なれ吹くは春風おおどかに横道世之介ひょろりと渡る

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