庭梅とともに 2010年の時間
2010年
母の記憶に天然はまだある?
庭梅の巻
「水玉」
秋澄むやだれかが弦を爪弾きて雨の翌日咲くたますだれ
夜の雨の名残の雫煌めきて不思議のもみぢ佳き朝きたる
けふ何を感じたりしか春を呼ぶ雨の粒受け夜ごみを捨つ
雨乞ひの効きて紫陽花今まさにひときは高くざわめき立ちぬ
青鷺の棲む古き沼われは知る赤き眼をして蔭より翔ぶを
灰色に穏しき空を水玉の奏づる音も夕べ果てゆく
「億年の旅」
子から子へ伝はりいくも我が選りしYと呼ばるる染色体は
五グラムの胎児の浮遊する海を抱く仕組みのありて苦楽す
梵鐘と幹のくねれる白梅と法然死して八百年とふ ==増上寺にて
金星と眉月われにウインクの距離と軌道のだまし絵いくつ
観る者も無きに巡りて億年の乾ける月の旅を悲しむ
「春浅葱」
春浅葱白き花々名乗り出で力合はすや桜咲くまで
微風にもはらり散るらむ桜花枝のみなりし空間を占む
花びらはもう旅立つか互にぞ会ふらむ縁あらば会ふらむ
道野辺に敷く花びらを嘆かむとすれども人のすでに詠みたる
この世にて詠むことごとく挽歌とし供ふる心なると気づきぬ
究極のモンスターのごと富士やまは寄る辺なき民最後の砦 ==写真の遠くに富士山
「庭 物思ひ」
あら嬉し白猫がいる中庭の風が転ばすプラスチックなり
大き葉の天使の羽に護らるるダチュラの莟五枚にひとつ
頬杖の陽に暖かきペランダに凭れ瞼は花待つ心地
かりそめの夏暮れざる夜最北の街往く影はアイス舐めつつ
名のみ知る師の歌涼しかそけくも消ぬべき一瞬留むるは愛
一刻は二時間であり寺任せドンが鳴るときゃそれ昼飯だ
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